第6話
「…誰なの」
開口一番、いつになく不機嫌そうな顔で結那は問いかけてきた。
呼び出されて屋上に来たのはいいものの、結那の鋭い視線が俺を突き刺してくる。こういう時はいつもろくなことにならない。愚痴を延々と聞かされたり、理由のない怒りが俺にぶつけられることもしばしばだ。そういう日と言うならしょうがないが、生憎男子の俺にはよくわからない。こっちの理由も考慮して欲しいものだ。
できるだけ気を逆撫でしないよう、俺は聞き返す。
「…なんの話?」
「誰なの。あの女は」
あの女、と言われて俺の脳内には金髪の天然野郎の顔が浮かんでくる。教室でじゃれていたのを見られていたし、間違いはないだろう。
「真理奈のことか?」
「ふーん、真理奈って言うのね。もう新しい彼女を作ったのかしら?」
つんとした態度を崩さず、結那は返してくる。そう言えばこいつには真理奈のことを言っていなかった。真理奈とは中学は別々だったために結那も彼女の存在をしらなかったらしい。
このまま素直に教えたほうが事は易く収まるだろう。だが、相手が相手。俺の中の好奇心が彼女を煽ってみようと騒いで仕方ない。ついに俺は好奇心に負けて言葉を口にした。
「そうって言ったら?」
「なっ…!?」
流石の結那も本当だとは思っていなかったらしく、取り乱した様子だった。してやったり。
俺の好奇心は留まるところを知らず、彼女に追撃を与えるべく口撃の準備を開始した。
「ど、どういうことなのよ!別れたのなんて昨日の今日でしょ!?」
「実は前から知り合いでさ。俺が別れたことを伝えたら俺の事支えたいって…」
「貴方、いくらなんでも…!」
「どうした?今の俺達はただの”他人”だろ?お前が俺の行動に口出しする権利なんてないんじゃないのか?」
「っ、それは…」
その言葉に結那は言葉を詰まらせた。らしくなく勢いのない様子は俺に更に愉悦感を与えてくる。前から愚痴を聞き続けていたことへの仕返しだ。このぐらいは許されるだろう。許されなくてもやるけど。
俺が愉悦感に浸っていると、結那が俺の袖を摑んできた。急な行動に俺は思わず動揺してしまった。
「今は関係無くても、昔はあったの。…少しぐらいはいいじゃない」
ほんのりと頬を赤く染め、俺から目線を外しながら結那は呟く。その声色には不安というか、気恥ずかしさというか、そんな曖昧な感情が滲み出ていて、それなりの破壊力を持ったものだった。
俺は元カノである彼女に不覚にもドキドキしてしまっていた。
「そ、それに、下手に交友関係を広げてあの女にバレたらどうするつもりなのよ!私と貴方にはまだやることが残っているわ。気を抜かないで頂戴」
「…嘘だ」
「…え?」
「真理奈と付き合ってるっていうのは嘘だ。あいつとはただの幼馴染。中学は別だったから知らなかっただろうけど、本当だ。怪しいと思うなら本人に聞いてみろ。聞きたくないことまで聞かされるぞ」
鳩が豆鉄砲を食らったよううな表情になった結那はみるみるうちに顔をしかめていく。俺に騙されていたということに気がついたのだろう。
「…からかったわね」
「引っかかるほうが悪い。第一、誰があんな奴と…」
「…心配して損した」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない。…このニブチン」
またもや理由のない言葉の棘が俺に突き刺さる。相変わらず可愛げに欠ける奴だ。もう少しばかり愛想が良ければ引く手数多だろうに。
「…で、わざわざ呼び出してなんの用だ?」
教室という人目のつく中でわざわざ呼び出したのにはきっとなにか理由があるはず。そう踏んだ俺は結那に問いかけた。結那は心を落ち着かせるように一つ息を吐いてから答えた。
「…察してるとは思うけど、
「まぁ、だろうな…」
「あの女に制裁を下すには、それなりの証拠が必要よ。追い詰めても、証拠がなければ仕留めるには至らない」
「…つまり、その証拠が欲しいと」
結那はうなづく。証拠が必要というのは俺も賛成だ。被害者男子生徒に聞き回れば証拠の一つや二つなんて簡単に出てくるだろうが、証言してくれるかと言ったらうなづく奴なんて一人もいないだろう。故に、証拠集めは難しいだろう。
「証拠なんてどうやって集めるんだ?男子に聞いたってきっと出てこないだろうし、今まで捨てられた奴らも反抗するなんて言わないぞ」
「そうね。きっと証拠を集めるのは困難を極めるでしょうね。…でも、それは一人ならの話」
まるで策でもあるかのように振る舞う結那はその瞳に俺を映した。
「貴方には私の言う通りに行動してもらうわ。策は既に練ってあるの。貴方が素直に従ってくれれば証拠は必ず掴める。そのためにも、変なプライドは捨てることね」
妙に上から目線な言い方が気になるところだが、今は気にしても仕方ないだろう。こいつの根底に根付いたそれは注意したところで簡単には治らないだろう。
「なぁ、一ついいか?」
俺は結那から策を聞く前に一つ聞きたい事があった。彼女の返答を待たずに俺の口からは質問がついて出る。
「これは本当にすべきことなのか?…いくらなんでも、復讐なんて…」
結那は一つ間を置いて目線を床に落とした。
「…これが正しい事なんて言い切れはしない。でも、これ以上被害者を増やすわけにもいかないでしょう?」
そう言われると、俺も反論の余地がなかった。
「…本当ならこういうのは生徒会とか教師陣とかの役目なんだけどな」
「しょうがないわ。彼らの立場上、不確定なもので個人を追い詰めることなんてできないもの」
これが無事に終わったら生徒会にもっと生徒間の問題に感心を持つようにお願いしよう。じゃないとこの学園の未来が心配だ。
「…それに、これは私なりの”償い”なの。いや、それもエゴかしらね…」
「償い?」
「いえ、忘れて。…とにかく、貴方には指示通り動いてもらうわ。異論はないわね?」
「…できるだけ安全なやつで頼むぜ?」
俺の返答を聞いて、結那はニヤリと笑った。
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