第5話

 晴れやかな天気が俺を包み込む。窓際の席である俺は日光を全開で浴びる事が出来る。


 昨日の出来事から一夜、俺と結那あいつの距離感は変わらない。この教室内、表立って皆の目線がある場所では関わることは少ない。あっても最低限の会話だけだ。それは優花のお仲間さんの目があるということもある。


 復讐なんて柄でもないことに着手してしまったことに俺は若干の後悔をしていた。 

 協力相手は元カノだし、相手は役満のクズ女だったし…そもそもそんなやつに騙されていたという事実が更に腹ただしい。

 だからといって復讐なんてことはしてもいいのだろうか。そんな疑問が俺の中でゆらゆらと揺れていた。

 俺にとって正しい選択とはなんなのか。その疑問は目の前の赤髪が断ち切りやがった。


「おい結城!いつになったら柊さんの写真送ってくれるんだよ!」


「…忘れてた」


「忘れてたじゃねーよ!!俺、昨日はお前から送られてくるのを一晩中待ってたんだぞ!」


 奏斗の目元を見てみると、くまができているのが分かった。どうやら一晩中起きていたというのは本当らしい。馬鹿な奴もいたものだ。


「わり、今は考え事あるからパスで…」


「パス!?俺の想いを無碍にするって言うのかよ!!」


「あーうっせーな…」


「おーおー、なに騒いでんだユッキー?」


 俺の顔が突如として掴まれ、ぐいっと天井に向けられる。そこに入り込んできた笑顔に俺は若干顔をしかめる。今度は違ううるさい奴が視界に入ってきた。


 揺れる金色の髪にニコッと笑った表情。無邪気な子供を連想させるその姿は美貌も相まって思わず見惚れてしまう。何度見たところで飽ないのはこいつのうるささがいつまで経っても収まらないからだろう。


「離せ真理奈。このままだと俺の首がもれなく折れる」


 彼女は東雲しののめ真理奈まりな。金髪碧眼、容姿端麗、笑顔の明るさ。見たら分かる、根っからのギャルだ。

 こいつの距離感は誰にでも近めだが、俺に対してはこの若干暑苦しいぐらいの距離な事が多い。まったく勘弁してほしいものだ。


「あー、ごめんごめん!ついつい」


「なにがついついだよ。ついで人の命を奪いかけるな」


「東雲さん!?なんで東雲さんが…」


「あー…お前には言ってなかったな。こいつは俺の幼馴染でな…」


「そ。私とユッキーはマブなんだぜ?」


 俺の横でキメ顔を決める真理奈を見て奏斗の顔が次第に歪んでいく。こいつの顔がムカつくのは十二分に分かるのだが、本人の前でそういう顔するのは良くないと思います。


 そう呆れていると、唐突に胸ぐらを掴まれた。


「おい結城てめぇ…こんな美女が知り合いなのに俺になんで紹介しねぇんだよ!」


「お前が柊一筋とか言うからだろ。それに、やめておいたほうがいいぞこんな奴」


「おうおう言ってくれるじゃねーかユッキー?自分の”彼女”だからってそこまで威嚇しなくても…」


「は!?」


「おまっ!?ち、違う奏斗!こいつは俺の彼女なんかじゃ…」


「結城…てめぇ…!」


 奏斗の表情がみるみる鬼の形相へと近づいていく。今まで見たことのないほどの怒り具合に思わず戸惑ってしまう。

 ここで断りを入れておくが、真理奈こいつは俺の彼女などではない。こいつは

昔からこういう奴なのだ。人を困らせるような冗談を吐いては平気な面をして帰っていく。まさに台風の目のような奴だ。


「おい真理奈!お前弁解しろ!」


「え〜?いやー…私だってユッキーを誰かにあげたくはないし?」


「これ以上の冗談はよせ!俺が死んでもいいのか!」


「それは困るけど〜…助けてほしいならねぇ?”それなりの”をくれないと…」


 この期に及んでこいつ…!俺の事が好きなら早く助けろ…


 一秒が過ぎていくごとに状況はみるみる悪化していく。留まるところを知らない奏斗の怒り。これでもかと奏斗を煽るように俺にくっついてくる真理奈。痛くなるまわりからの視線。この状況は誰も得しない。…真理奈はするかもだけど。だが、どのみちこの状況を打破しなくてはいけないことは確か。振り回される脳を必死に動かして解決策を考える。


 どうしようもない状況に苦戦していると、俺に突き刺さる数多の視線の中から一つ明らかに鋭く冷たいものがあるのを感じ取った。

 その視線を放つ人物は俺のすぐ後ろに立っていた。


「…柊」


 いつになくしかめっ面で、不機嫌そうに眉間にシワを作っている結那はただ俺を見下ろしていた。その姿からは無言の圧が感じられて、自然と俺の意識は彼女の次の行動へと割かれる。


「ひっ、柊さん!?お、俺は何も…」


「…不知火くん、少し話があるの。屋上まで来てくれる?」


 俺の返答など聞かずに結那は教室を出ていった。全く、教室では極力関わらないと言ったのはどこの誰だったか。

 結那が来てくれたおかげか、俺の胸ぐらを摑んでいた奏斗の手は離れている。こればかりは後で感謝しておくべきか。


「わり、俺行かなきゃ。…真理奈」


「離れたくないよユッキー…また放課後ね?」


 適当にあしらいつつ、真理奈を引き剥がす。こいつは少しかまってちゃんが過ぎる。早く彼氏の一人や二人でも作って大人しくなって欲しいところだ。

 俺はクラスメイトからの視線から逃げるように教室を出た。



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