短冊に愛を込めて

丸膝玲吾

第1話

 キュンキュンは正直ものだから思ったことは直ぐに口に出す。

 「レナさんは可愛いね」 

 それは微笑ましい青春の1ページのはずだった。

 しかし、その言葉を口に出したのがキュンキュンだったこと、言った相手がレナさんだったこと、口に出したのが修学旅行の移動中のバスの車内でキュンキュンはマイクを持っていたことの、どれもが間違っていた。

 あと二年で社会の荒波に揉まれるクラスメイトは大人だった。キュンキュンが突然告白しても、楽しい修学旅行の雰囲気を壊すまいと皆で団結して女々しくてを歌った。

 レナさんもキュンキュンの告白を頭から絞り出すかのように、必死に声を上げて歌った。キュンキュンはそんなレナさんの様子を見て「やっぱり可愛い」と呟いた。

 その言葉に反応したのはバスのエンジン音だけだった。

 女々しくての大合唱の中でキュンキュンはレナさんの手を握った。

 レナさんは流石に無視することができずに歌うのをやめてキュンキュンの方を見た。

 「なっなに」

 レナさんは戸惑いながらキュンキュンの方を見た。キュンキュンの目は虚だった。焦点が合わず夢を見ているようだった。キュンキュンはそのままレナさんの方に顔を近づけた。

 レナさんの体はガクガクと震え出した。目が少し潤んでキュンキュンが肌色の塊に見えた。近づくキュンキュンの顔になすすべなく、時間が全てを解決してくれるのを待つように思考をやめた。

 キュンキュンの唇がレナさんに触れた。瞬間、キュンキュンはレナさんの口の中に舌を入れ、そのまま舐めまわした。キュンキュンはアリの巣を貪るアリクイのようにレナさんの口の中を堪能した。

 「おえ」

 キュンキュンが口を離すとレナさんは嘔吐して白いスカートを吐瀉物で汚した。周りの生徒は彼らの一部始終に気を向かせながら、女々しくてを歌い続けた。

 レナさんは徐に立ち上がりバスの前の座席に移動した。キュンキュンは何も起こっていないかのように無表情だった。

 キュンキュンは席に座った。レナさんの吐瀉物の酸っぱい匂いだけが鼻腔に残っていた。

 その日の午後、キュンキュンは鹿の尻に自らの股間を当て擦り、猥褻罪として警察に捕まった。

 警察への事情聴取の際、すれ違った警官の女性に恋をして後ろから抱きついた。キュンキュンは未成年ということでお咎めなしになったが、修学旅行明けの登校初日、もはや学校にキュンキュンの居場所はなかった。

 キュンキュンは教室から抜け出して職員室へ向かい、担任の老女に告白した。そして振られた。

 その一ヶ月後の七夕、キュンキュンは短冊にこう描いた。

 『ピカチュウになりたい』

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短冊に愛を込めて 丸膝玲吾 @najuna

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