嫌われ者のお掃除ガール
あの箱は…掃除用具入れ。その中から出てくるということは……
「お前は‥ほうき!」
私の心の声と、イス、黒板の警戒するような声が重なる。
「なにしに来たんや。今はワイらで大事な話しとるんや。」
鬱陶しそうな目で黒板がほうきを睨む。
「さっきも言ったでしょー。納得できないって。アンタがその『苦労王』ってやつのチャンプになろうとしてるのが。」
恐らく、ほうき界の中での女子高生ぐらいの年であろう彼女が、ほこりを散らしながら、まるでモデルがランウェイを歩くかのように、その自慢そうなスタイルを見せつけながら黒板の方まで寄ってきた。
同じ年頃の男ほうきは、彼女の柄から穂先にかけてのラインを、人間でいうボディからのスカートのように華奢で魅力的に見えているのだろうかと、ほうきの世界を想像してしまう。
「‥なにぃ?さっきのを聞いて納得できんのか?お前も聞いとったやろ、ワイの言い分を。」
「ええ、その上で言ってるのよお。」
この自信に満ち溢れてた態度に黒板は眉をひそめる。
「これは‥‥」
似ている。と言わんばかりにイスの頭にある情景が浮かぶ。
自分が黒板に言葉の弾丸を心臓に撃ち込まれたあの時。
「アンタ、苦労がどうの言ってるけど、まず母数が違うのよ。」
「母数?なにを言うと‥」
「分かるでしょ。アタシやイスは全国各地、色んな場所を飛び回って活動している。」
「‥‥なのにアンタはいつまでもいつまでも学校にしがみついて!それで『俺が1番苦労してる』とか、バッカじゃないの!?」
「‥‥!」
ほうきの甲高い声が教室中に響き渡る。黒板も痛いところを突かれたのだろう。口ごもり、何も言い出せないでいる。
「チョークが痛いとか、教室の中央にドーンと立ってイキッてるんだから自業自得でしょ。『井の中の蛙』って言葉、『教室の中の黒板』に変えた方がいいんじゃない?」
「‥なんやねん『教室の中の黒板』て、おもんないねん。」
失速している。明らかに黒板が失速している。
「あんま言いたくないんだけどさぁ、アンタってもう学校ですらお荷物だからねぇ。」
「なんやと?それは聞き捨てならんわい!黒板はでっかいノートや!ワイに教師は教えたいこと書いて、それを生徒に共有するんや!黒板あらずして、なぁにが学‥」
「ホワイトボードでいいじゃん。書くのも消すのも楽だし。」
「はうっ!!」
食い気味に女子高生がおじさんに言葉の槍を突き刺す。これは黒板消しでも消えない痛みだろう。
「つまり、アンタはしなくていい苦労を自分からやってる。‥あれだ、ドMってやつ?」
「ぬわぁぁぁあ!」
黒板が戦闘不能になった。
「‥アンタ達はいいよねぇ、ほぼ毎日 綺麗にしてもらえるんだから。私は年末の大掃除やらなんやらで担当になった子に嫌な顔されて手抜かれながら埃取りされるだけよ。」
すかさず自分のマウンティングも挟む。相手を下げて勝ちを確信しても慢心せず自分を誇る。抜かりない。女子高生が末恐ろしいと感じるのは、おそらく彼女が最初で最後だろう。
ガチャ。ポーンポーン
だが‥‥まだ勝負は決しない。
「さーせん。できればそれ、オレも混ぜてくださいッス。」
「アンタ‥‥!」
モノトーーク! きん斗 @bassyo-se2741
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