なんてことはない

夜道を歩いていた私は嫌な予感がして振り返る。


誰もいない。


安心して前を向いて歩き始める。


否、歩き始めようとした。

足が上がらない。


足元に目を向けた。靴が見えない。

足が地面に沈んでいる。


だが、沈んでいる感覚はない。


もがくがますます沈んでいっている気がする。


私が何かしたのか?こんな目に遭うなんて罰当たりなことをしたに違いないと思うがそんな心当たりはない。


沈む、しずむ、しずんでいく。

太ももが腰が胴体が沈む。沈んでいるのに感覚がない。歩こうと思えば歩けそうな気さえしてくる。まあ、動けないのだが。


口が沈む、鼻が沈む、耳が目が沈む。動けないので呼吸はできないが不思議と苦しくはない。沈む時に目を閉じてしまったせいか前が見えない。

音は聞こえる。音が聞こえる!

耳を澄ませる。教えてくれ、私が何をしたのか。


子供たちの楽し気な声が聞こえる。

朝になったのか。わからない。

お腹は空かない。眠くもならない。


耳を澄ませるがこれ以上は何もない。

今の自分は沈んでいっているのかそれともここで留まっているのかわからない。

誰か、誰か。


自動車が通り過ぎる音が聞こえる。

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