第5話 竜王バハムート
ザガートが敵を仕留めた余韻に
「ホッホッホッ、なかなかおやりになりますねぇ」
何者かがそう言って拍手しながら物陰から姿を表す。
トランプのジョーカーのような赤いピエロの服を着て、白塗りのメイクをした、
「私は魔界の道化師ケセフ……魔王軍の幹部にして、大魔王様の側近が一人。この村を侵略する魔族の総指揮官兼参謀を任されております」
ケセフと名乗る道化師風の男が、頭を下げて自己紹介する。
その男、村を襲撃した魔物を
「それでケセフとやら……一体何の用だ? 俺の力に恐れを
ザガートが皮肉を交えつつ男の真意を問う。油断のならない人物だと警戒し、鋭い目付きで
「ホッホッホッ、ご冗談を……我が主君はアザトホース様お一人。貴方にお仕えする気など
ケセフが魔王のジョークを笑い飛ばして主君への忠義を示す。
「ザガート……異世界から来た魔王だと言いましたね? 確かに貴方の実力は本物だ。それだけ高い魔力があれば、どこぞの世界で魔王だったとしても不思議は無い」
これまでの戦いから
「……ですがッ! 今まで見せた実力程度では、アザトホース様には遠く及ばないッ! せいぜい魔王軍の上級幹部に
突然クワッと
「貴方が魔王に相応しくないという事、今ここで証明してみせましょう! アブドーラガンダーラ、ボルボルギルヘム、ガルガンゾーア……フェムブフ!!」
話を終えると両手を組んで人差し指を垂直に立てて、何やら怪しげな呪文を唱え出す。それは召喚の呪文だったらしく、詠唱が終わると彼の前にある地面に円形の魔法陣が浮き出て、そこから巨大な何かが姿を現す。
現れたのは古代の恐竜ティラノサウルスより大きな、二足歩行するタイプのドラゴン……全身は純黒に染まっており、体格は
人型に近い外見、感情表現豊かそうな顔は、知能の高さを
「大魔王様に次ぐ実力を誇る、魔界最強のドラゴン……竜王バハムートッ! 魔王軍における地位はナンバー
ケセフが召喚した竜の正体を明かす。よほど竜の強さに自信があるのか、腰に手を当ててふんぞり返った誇らしげなドヤ顔になる。
「魔王ノ名ヲ
そう叫ぶや
男を包んだ炎は
「ザッ……ザガート様ぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
男が炎で焼かれたのを見て、ルシルが悲痛な声で叫ぶ。目にうっすらと涙が浮かんで、今にも泣きそうになる。魔王が殺された事実に胸を激しく打ちのめされて、絶望の奈落へと突き落とされた。
「も……もうおしまいじゃあ」
村の長老と思しき年老いた白髪の男性が、顔面
「ああ……」
「もうダメだ……」
他の村人達も同様に失意に呑まれて、次々に悲しむ言葉を口にする。ザガートならやってくれるはずと心の何処かで期待したからこそ、それが裏切られて心がへし折られた気持ちになる。もう自分達は魔族に皆殺しにされるしか無いと考えた。
「ヒヒヒッ……竜王バハムートが吐く灼熱の炎は、宇宙最硬物質アダマンタイトを
ケセフが悲嘆した村人に追い打ちを掛けようと、大きな声で笑う。ドラゴンのブレスの威力を自慢するように解説して、それに耐えられなかったザガートを大いに
主君以外に魔王が存在する事を許せない思いがあり、敵を倒せた事に心から気を良くした。あまりに激しく笑いすぎて、
ケセフが勝利の喜びに
「ほう……ではこの炎に耐えたら、本物の魔王として認めてもらえる訳だな?」
それに水を差すように、何処からか言葉が発せられた。
「なっ……何ィィ!?」
ザガートらしき男の声を聞いて、ケセフが一瞬にして青ざめた。勝利の余韻は完全に吹き飛び、心臓がバクバクして
声が聞こえた方角に道化師が振り返ると、
「きっ……貴様、ザガートッ!!」
男の姿を目にして、ケセフが激しく動揺する。
「うっ、嘘だ……そんなの嘘だッ! 絶対嘘だッ! バハムートの炎は宇宙最強ッ! それに耐える者がいたなんて、そんな事、絶対にあっちゃいけないんだぁぁぁぁあああああッ! うわぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
男がドラゴンの炎に打ち勝てた事実が到底受け入れられず、
「馬鹿ナ……」
バハムートもまた、ザガートが無事だった事に驚く。ケセフほど慌てふためいてはいないものの、それでも困惑の色を隠せない。
男は服の表面が
「バハムートよ……貴様の炎、なかなかの威力だったぞ。もし喰らったのが並みの冒険者なら、
ザガートが自分を焼いた炎の威力を
「竜王バハムート……貴様の強さに敬意を表し、我が最大威力の一撃を
全力の一撃を放つ事を宣言し、両手のひらを相手に向けて魔法を唱える構えを取る。
「
詠唱の言葉を口にすると、男の手のひらに魔力が集まっていき、青白い光を放つ光弾になる。光弾は次第に大きくなっていき、やがてダチョウの卵くらいの大きさになる。
「……
魔法名を叫ぶと手のひらにあった光球が正面に向けて放たれる。光球はグングン加速して音速を超える速さに到達すると、ドラゴンめがけて一直線に飛んでいく。
ザガートの攻撃魔法と思しき『それ』が体に触れた途端……。
「グッ……ウガァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
バハムートが声を上げて苦しみ出す。凄まじい痛みに襲われたのか、地面に倒れて激しくのたうち回りながら、体中を両手の爪で何度も
ドラゴンの体が
黒焦げの肉片が雨のように降り注いで、彼の明確な死を印象付ける。
「ひぃぃぃぃ! バハムートが……バハムートがやられたぁっ!!」
頼みの
「いっ……嫌だ……死にたくないッ! 俺はまだ、死にたくないんだぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
戦意を喪失すると、大声で泣き言を
「逃がさんッ!」
ケセフに追い打ちを掛けようと、ザガートが魔力を凝縮した光線を指から発射する。
だが
(逃げられたか……フンッ、まあ良い。あの程度の小者、生かしておいたとて今後の禍根にはなるまい)
ザガートは敵を取り逃がした事を悔しがりつつ、大きな損失には繋がらないと自分に言い聞かせた。
「……」
ルシルを含む大勢の村人は、男が竜を倒して魔王軍を退散させた光景を、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます