第4話 魔王救世主
村に
「俺の名はミノタウロス……魔王軍の幹部よッ!」
ザガートの問いに、牛頭の男が誇らしげに答えるのだった。
「そうか……ならばお返しに、こちらも名乗らせて頂こう。ミノタウロスよ、とくとその胸に刻むが良い……俺の名はザガートッ! 異世界から来た魔王なり!!」
律儀に名乗った相手への礼として、ザガートもまた自らの素性を明かす。
「異世界から来た魔王……だと!?」
男の名乗りを聞いて、ミノタウロスの表情が一変する。顔には焦りの色が浮かび、
男の言葉を虚言だと一笑に
だが今は違う。自身に効かなかったとはいえ、牛頭はオークが一瞬にして全滅させられたのをこの目で見たのだ。それは男の言葉に十分な説得力を持たせるものだった。
「グヌヌゥ……けしからんッ! この世界において魔王を名乗って良いのは、我らが魔族の
牛頭が大魔王の名を口にしながら、深く
主君に強い忠誠を誓ったが
「そんな事よりミノタウロス、貴様に一つ聞きたい。貴様ら魔族の目的は何だ? 一体何の狙いがあって、人間の村を襲おうとする?」
牛頭の態度など気にも止めず、ザガートが率直な疑問をぶつける。
ゼウスが言っていた人間を襲う魔物というのが彼ら魔族である事は間違いない。彼らが対話や交渉によって歩み寄れる存在なのか、
「我らの目的だと? フフッ、知れた事よ! 我ら魔族、
ミノタウロスが何を
「そうか……」
牛頭の言葉を聞いて、ザガートが残念そうにため息を漏らす。目を閉じて下を向いたまま、やれやれと言いたげに首を左右に振る。
化け物はしょせん化け物か……そんな考えが頭をよぎる。
「貴様ら魔族の狙いが、人類を根絶やしにする事なら……俺はそれを阻止する
顔を上げて目を開くと、人類を守る事を高らかに宣言する。
「聞くが良い、ミノタウロスよ……俺の目的は世界の救済者となる事。英雄の名声を足掛かりとして、この世界に俺が支配する新たな王国を築く。その
胸の内に秘めたる野望を明かす。世界を救った後に自分の王国を作る事、それを成し遂げるには人類の存在が必要不可欠である事を
「人類を守る、だと? ブワハハハッ! 貴様、気でも狂ったか!? ニンゲンを守るために戦う魔王など、そんな話聞いた事も無いわッ!!」
ミノタウロスが腹を抱えて大笑いする。完全に男の言葉を信じるに
「ザガート、やはり貴様は魔王と呼べる
改めて男を魔王と認めない考えに
「我が斧の
近接戦の間合いに入ると、天に向かって高々と振り上げた斧を全力で振り下ろそうとした。
ブウンッと風を切る音を鳴らしながら迫る巨大な刃を、ザガートは避けようともしない。
「ッ!!」
ルシルが恐怖のあまり
だが目を閉じた少女の耳に飛び込んだのは、男の悲鳴でもなければ、肉が叩き割られた音でもない。辺りがシーーンと静まり返り、物音一つしない。時折
ルシルが恐る恐る
「なん……だと!?」
ミノタウロスが驚きの言葉を発する。表情は一瞬にして青ざめて、体中に冷や汗をかいて、手足の震えが止まらなくなる。あまりの恐怖に鳥肌が立つ。
少女の目に映った景色……それは牛頭が振り下ろした斧の刃を、男が素手で止めていたものだった。自分の倍以上ある背丈の大男が振った鉄の
ミノタウロスは斧を力ずくで前に押し込もうとしたが、いくら腕に力を込めてもビクともしない。まるで山をも超える巨人に
「俺を魔法しか能の無い男だと思っていたなら、考え違いも
ザガートが斧を手で掴んだままニヤリと笑う。表情に余裕の色が浮かび、完全に相手を見下した強者の態度を取る。
「フンッ!」
「ぬおおおおおおっ!!」
宙に投げ出された牛頭が大きな声で叫ぶ。
「グヌゥゥ……」
ミノタウロスが悔しげに
「貴様ぁ……よくも……よくもこの俺様に、土を付けてくれたなぁ……この魔王気取りの、ニセモノめがぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーッッ!!」
地面に投げられた事に牛頭が声に出して激高する。体に受けた痛みよりも、砂を付けられた事に深く
目は真っ赤に血走り、興奮した猛牛のように鼻息を荒くさせて、
「殺すッ! 絶対に殺すッ! 貴様をバラバラに引き裂いて、見せしめに
死を宣告する言葉を口にすると、斧を地面にぶん投げて素手で突進する。腕を左右に大きく広げて両手をグワッと開いたポーズのまま、相手に掴みかかろうとした。首を絞めようとしたか、力任せに握り
「ゲヘナの火に焼かれて、消し
ザガートが敵に右手の人差し指を向けながら魔法を唱える。
すると男の指先から
ミノタウロスに触れた瞬間火球がダイナマイトのように爆発して、彼の全身が一瞬にして炎に包まれる。
「ズギャァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」
超高熱の炎に体を焼かれた痛みでミノタウロスが絶叫する。死のダンスでも踊るようにジタバタともがき苦しんで暴れたが、やがて力尽きたようにガクッと
「ダッ……大魔王……ザ……マ……」
無念そうに主君の名を口にすると、地に膝をついたまま息絶えた。
彼を焼いた炎が鎮火すると、黒焦げの死体だけが残る。その死体も完全に炭化したらしく、一陣の突風が吹き抜けると灰となってボロボロと崩れていく。そのまま風に流されるように跡形もなく散っていった。
「フハハハハッ! 俺の
ザガートが腰に手を当てて嬉しそうに高笑いしながら、魔法の威力を得意げに語る。自身の力を見せ付けられた事に心の底から満足した笑みを浮かべて、気分が高揚したあまり鼻歌まで
「……」
勝利の余韻に
それでも少女は心の何処かで、圧倒的すぎる暴力に
ルシルは自分の中にそんな感情があった事に
彼女だけではない。一連のやり取りを彼女と一緒に見ていた村の男性達も恐怖と
「……
村人の一人が、ふいにそう口にした。
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