3
「私はもちろん――自分」
すると何も無かったはずの手にも同じ拳銃が一瞬にして現れた。
そして床をひと蹴りしルーレットテーブルに跳び乗るとスカリは両手の銃を構えた。
「プレイスユアベット」
言葉の直後、辺りに鳴り響く銃声の連打。同時にコントラクターは引き続きテーブルでその猛攻を防ぎ続けた。
だが、一枚また一枚とカードが捲れるように変わっていく戦況。コントラクターはそのままテーブルをスカリへと投げ飛ばした。銃弾を防ぎながらテーブルは真っすぐスカリへと向かっていく。ほぼ同時に彼女も足元を蹴り飛ばすと正面のテーブルを迎え撃った。
しかしスカリはすぐに両手に持っていた銃を左右へ投げ捨てる。空中を駆け――溶けるように消えていった銃。その間にテーブルは目前へと迫っていた。
そして横一閃。銃に代わり右手に握られた刀はテーブルを真っ二つ、上下に斬り分けた。隙間から顔を見せたスカリとコントラクターの目が合うと勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「ノーモアベット」
スカリは足元を通り過ぎようとしたテーブルを足場に一気に間合いを詰めた。刀を構え接近するスカリに対しコントラクターは組んだ両手を頭上で構える。そして完璧なタイミングで振り下ろされた。
だがしかし両手は空振り。コントラクターの眼前から消えたスカリの姿は既に背後へ。手元でクルリ刃と峰を逆にした刀を構えるとそのまま殴り――はせず、片足を軸に体を回転させながら蹴りを突き出した。
その勢いのままコントラクターは無抵抗で床へと飛び込んだ。音で分かる程に強打したにも関わらず、直ぐに立ち上がろうとしたコントラクター。だが振り下ろされた足が透かさず床へと戻した。
そして刀から変わった銃が不穏な音を鳴らす。
「グットラック」
笑みと共に送られた言葉の直後、鳴り響いた一発の銃声。
だが銃弾は頭を外れ床に穴を開けただけ。わざと外したスカリはすぐに頭を蹴り飛ばしコントラクターを気絶させた。
「はい。手を上げろー。警察だー」
するとそのタイミングでやってきた数名の制服警官を引き連れたスーツの男は、面倒臭そうに言葉を並べた。無精髭と白髪交じりの髪の男はあまり健康な生活は送っていなさそうな容姿をしていた。
そして男を含めて警察は誰一人として銃を構えておらず、そこに警戒心はない。
「一つ貸しって事で」
武器の消えた手の片方で人差し指を立てて見せたスカリはそのまま歩き出すと男の元まで足を進めた。
「ったく。んな事ならわざわざ来るんじゃなかった」
「たまたま居合わせただけだって。んじゃ、あとはよろしく。須藤さん」
そう言って刑事部捜査第五課の刑事――須藤葉介の肩をぽんっと叩き、スカリはカジノを後にした。カジノ客が野次馬のように中の様子を伺う外へ出たスカリはざっと辺りを見回す。だがあの男の姿は群衆の中にも周辺にもなかった。
「はぁー。どうしよっかなぁ」
溜息を零しつつもスマホを取り出したスカリは、数回の操作をした後に耳元へ。
「もしもし? 今いいかな?」
『今? いやぁ、ちょっと……』
向こうから聞こえてきたのは若い男の爽やかな声。
「サクッと終わるから。ちょっとお願いがあるだけ」
『本当に今は時間が――』
「さんきゅー。それでお願いなんだけど」
それからほんの数分で通話は終わり、スカリの足は確実な目的地へと歩き始めた。彼女が真っすぐ向かった先は駅構内。
「さてさて。あとはどう探すか……か」
顎に手を当てながら視線で辺りを撫でたスカリだったが、それは一周する前に止まった。先にはあの男の姿が……。
「はっはーん」
手は顎から顔の前を通り頭上へと伸びていくとそのまま空を掴んだ。何かを探る様に何度も空振っては、最後に自分の頭へ触れる手。
「うっそーん!」
スカリは慌てた様子で両手を使い至る所を探り始めた。
「無い! ない! ナイ!」
彼女はサングラスからしてみればようやく、気が付いたらしい。
「落としたぁ」
一目も気にせずガックリと肩を落とすスカリ。
だがすぐに顔を上げると逃さぬ内に男を捉えた。
「まぁいいか」
そう呟くとスカリは男の後を付け始めた。人波に紛れながら男を密に追い続ける。その視線は背中を掴んで離さない。電車に乗る訳でもなく構内を歩き続ける男と近過ぎず遠過ぎない距離感を保ち続けては只管に後を追った。
「どこに向かってるのかなぁ?」
そのまま後を追い続けたスカリが導かれる様に辿り着いたのは駅構内のコインロッカー。立ち止まると男はゆっくりとした足取りで目的の番号を探し始めた。
一歩、二歩と数歩ですぐに止まるとポケットから取り出した鍵でドアを開けた。中に入っていたのはセカンドバッグ。男はこっそりと中身を確認するとそのバッグを取り出し、更に紙を一枚取り出した。そしてコインロッカーに凭れ掛かりその紙へ軽く目を通すと折り畳んでポケットへ。
それから男はその場から離れようとするが、それを不意に聞こえて来た声が止めた。
「真壁芳樹」
踏み出した足を止め声のしたすぐ隣へ横目をやる。
男の隣には先程までを真似るようにロッカーに凭れたスカリの姿があった。腕組みをした見知らぬ女性に名前を口にされ、真壁は眉を顰める。
「誰だ?」
「私は神速スカリ、探偵さ」
静かにそう言うと挑発的に不敵な笑みを浮かべて見せるスカリ。
「なーんて。冗談」
だがすぐになんてことない笑みへと変化させると肩を竦めるように両手を広げた。
「まぁ完全に嘘って訳でも無いけど、何でも屋って言った方がいいのかも」
「だから?」
「吉川光里。それがあんたの恋人であり、私の依頼人の名前」
その名前に表情が先に反応を見せた真壁に対し、スカリは取り出したスマホで音声データを再生した。
『それじゃあまずは名前を』
『はい。吉川光里です』
『それでどんな依頼を?』
『実は……』
そこで音声は途切れたが真壁はサングラス越しに瞠目し、同時に何も言えずにいるい口は微かに開き唖然としていた。
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