第5話結美様いきなり世界最強種ドラゴンと出会う

マリアが抱きついてきた。

抱きつくというより、タックルと言った方が正しいかしら。まったく、仕方がない子ね。

無自覚に敵を作っていきそうなタイプの子だわ。

「メルス君が待ってるから行くね!」

マリアはあっという間に出て行ってしまった。

「本当に仕方ない子ね‥」

こうなったら一人で特訓するしかないわ。


外に出ると、本当に漫画の世界が広がっていた。

段々畑に囲まれ、十数件ほどの家々がまばらに立ち並ぶ小さな村。

「漫画では、森の手前の原っぱで特訓していたはず‥」

多分あの森だと思うんだけど‥。

「行ってみよう」


村は主に平野で、道は土のまま。

道の端には花が咲き、所々に生えている樹木はたっぷりの緑と果実を抱えている。石の橋が架かった小川があり、魚の影が見える。橋を渡りきると、馬を連れた男性に声を掛けられた。

「おや、ユーミじゃないか。これから特訓かい?毎日偉いねぇ」

この人は‥マリアのパパ!


「こんにちは!入学式前、最後の特訓をと思いまして」

「ユーミは本当に真面目で努力家だねぇ。お父さんとお母さんも、ユーミのことを誇りに思っているだろう。こんなに立派になって、おじさんも嬉しいよ‥」

ユーミは9歳のときに事故で両親を亡くし、幼なじみのマリア一家や村の住人たちに助けられながら、一人で暮らしている。元の世界だったら無理のある設定だけど、ユーミは周囲の人々に助けられながら魔法学院の入学式を迎えたという設定だ。幼なじみのマリア一家には特に世話になっており、マリアの両親も自分の娘のようにユーミに目をかけている。

「ありがとうございます。明日の入学式に行けるのも、おじさんやおばさんはもちろん、村の皆のお陰です。本当にありがとうございます!」

「ユーミ‥。村一同、本当に祝福しているよ。何かあったら、いつでも帰ってくるんだよ。私たちはいつでも、この村にいるからね」

「ありがとうございます。この村で産まれ育つことができて、本当に良かった!」

ニコッと笑って見せると、マリアパパは涙ぐんでいる。

ちょっと演技が過ぎたかしら‥。

「えっと、それじゃ特訓に行ってきますね!」

「ああ、怪我しないように頑張るんだよ!」

マリアパパに会釈をし、森を目指す。

あそこまでいい人だと、良心が痛むわ。

本当のユーミじゃなくて申し訳ない‥。



しばらく歩くと、色彩溢れる野原に辿り着いた。

「すごく綺麗‥」

思ったよりも広く開けた野原には、色とりどりの花が咲き、右手に小さな丘、奥には森が控えている。

一部、土が露出している箇所があったりと、いかにも特訓していそうな雰囲気だ。

「ここで間違いなさそうね」

たしかに村の外れで人に迷惑は掛けなさそうね。

漫画は白黒ページが多かったから分からなかったけど、想像よりも素晴らしい景観だわ。こんなに美しい自然を少しでも壊すのは気が引けるわね‥。

しばらく考えたが、土地勘がなく、他に適した場所を見つけられそうにないので、諦めてこの場所を借りることにした。

「できるだけ自然を壊さないようにしないと。さー始めるわよ」

漫画で見た魔法で簡単そうなのは、あの火の玉のやつかな?ファイヤーボールだっけ?

『魔法を使うには、イメージしながら集中する』って漫画に書いてあった気がするけど、手順とか詳しいことを全く覚えていないわ。

魔法に興味無さすぎて、魔法の描写はほぼ飛ばし読みしてたのよね‥。あー!きちんと読んでおけば良かった!

記憶の限り、全力を尽くしてみるしかなさそうね。イメージしてながら集中‥。

火の玉‥火の玉‥火の玉‥‥

「せーのっ!ファイアーボール」

ボワッ

「できたー!!」

やばい!裕美まじで天才!こんな簡単にできちゃっていいのかしら♡

「え、てかこれどうやって消すの!?だんだんおっきくなってない!?」

やばい使い方分かんない、制御できない!

このままじゃ私まで火の玉になっちゃう。ぶん投げるしかないかしら‥!?

ゴオォッ

突然の突風と共に、自分の周りだけ薄暗くなる。

「何?何なのよ!?」

もしかして変な魔法使っちゃった?なんか召喚されるとか!?

「グオオオーーーー」

地鳴りのような雄叫びが響き渡り、思わず目を瞑る。その瞬間、ゴオッと2度目の突風が突き抜けた。

「ドラゴン!?」

突風の後、恐る恐る目を開けると、目の前に真っ赤なドラゴンが現れていた。

アニメや漫画には出てくるけど、生で見たのは初めて‥。

でかすぎでしょ、しかも全然可愛くない。

「あー!火の玉消えてる!!何なのよ、あんた!せっかくのファイヤーボールが消えちゃったじゃない!」

んん?結果オーライか!そこら辺にぶん投げて放火犯にならずに済んだわ♡

「おい、人間。よくも私の眠りを邪魔してくれたな?」

え、喋れんの!?想定外すぎるんですけど!

「はぁ?邪魔した覚えなんて全く無いんですけど。まずあんた、どっから湧いてきたのよ!」

やばい、つい言い返しちゃった!てか初対面でいきなり言いがかりつけてくるとか、キチガイドラゴンね。

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