第4話少女漫画の主人公登場!?

「ユーミ?今日は特訓しないの?」

いきなり部屋のドアが開き、顔を覗かせたのは、漫画の主人公にそっくりな女の子だった。

「マリア‥!?」

え、てか今「ゆうみ」って言った?どっちの「ゆうみ」よ!?裕美様?漫画のユーミ?

「ユーミ?大丈夫?顔色が悪いよ、もう真っ青。どこか体調悪い?それとも、明日ファレオス魔法学院の入学式だから今から緊張してる?」

マリアは話しながら遠慮なく部屋へ入り、私の顔を覗き込む。

薄いブラウンの瞳が、まっすぐ私の瞳を捉える。金色のロングカールの髪に太陽が反射して眩しい。血色の良い頬に、くるんとしたまつ毛。かわいい‥

ぼうっとマリアの顔を眺めていた‥って、ちょっと待て!

「魔法学院って言わなかった!?」

もしかして‥!

「ユーミ、寝ぼけてるの?本当に大丈夫?明日は魔法学院の入学式よ」

マリアの話し方と表情は至って真剣だ。とてもふざけているようには思えない。

仮説は確信に変わった。

「やっぱり、あの漫画の世界なんだわ‥」

理由は分からないけど、私は漫画の世界に来て、ユーミになってしまったんだ。本当に信じられないことだけど‥。

「ユーミ?特訓は?今日は辞めとく?」

マリアが心配そうに私を見つめている。

「ああマリア。ごめんね。すぐ準備するから、部屋の外で待っていてくれるかしら」

ニコッとマリアに笑いかける。


「分かったわ、早くしてよね」

マリアは少し怪訝そうな顔をしながらも、部屋を出ていった。



これからどうしよう。このままユーミとして、この世界で生きていく?そもそも、無期限でこの世界にいられるのかしら?元の世界に戻るのもアリかな?てか、戻れるの?

「‥まあ、成るように成るでしょう。とりあえずユーミとして振る舞っておこっと!漫画の世界に来ることなんて、そうそう無いことだし。なんか面白そうだし~♡」


当分の間、この世界を満喫してみることに決定!


「えぇっと、特訓の準備っと‥」

魔法学院がどうとか言ってたから魔法の特訓?

確かに、あの漫画でも魔法を使ってたっけ‥。

さっきも怪訝そうな顔をされてしまったし、マリアに不信感を持たれたくない‥。

漫画の設定を詳細に思い出して、上手くやらないと!マリアは明日、魔法学院の入学式って言ってた。思い出せ〜、思い出せ〜‥。

鏡の中の自分と目が合う。

「あ。私、明日死ぬわ」

ユーミとマリアは同じ村に住んでいる平民同士で、幼馴染み。

マリアは漫画の主人公で、ユーミはこの世界において圧倒的な魔力を持つ。

圧倒的なはずなんだけど、二人揃って参加した魔法学院の入学式の日、ユーミは死んだ‥。

「いや、そんなのおかしいって!」

いや待って、落ち着いて。いや、落ち着けるかタコが!

「私がどんな悪いことしたって言うのよ!」

確かにね、生き物は皆、時が訪れれば死を迎えるものです。でも明日って!早すぎでしょ!

「え、絶対嫌なんですけど」

折角この世界を満喫しようと思ったのに!絶対死にたくない。と、すれば‥。

「‥全力回避一択!」

よし、やってやろうじゃないの。

ユーミが死ぬのは、正確には明日の夕方くらい。

入学式のあとの魔力試験を敵国のスパイがひっそりと監視していて、ユーミの桁違いの魔力を知る。ユーミの魔力を恐れた敵国のスパイは、油断しているユーミをその場で暗殺する‥。

「明日、魔力を制御できれば‥?」

我ながら、さすがに天才すぎる。名案だわ!

「これでいこう!」

でも私、魔法なんて使ったこと無いし、そもそも魔法ってなに?どうやって使うの?

「ユーミー!まだー?」

部屋の外からマリアに急かされる。

「あ!ごめんねー!もうちょっと、すぐ行く!」

何も準備できてないけど、もうこのままでいっか。今日の特訓で、魔法の使い方と制御の仕方を覚えないと。明日が勝負の日よ。

一応、鏡の前で髪をかるく整え、部屋のドアを開ける。

「マリア!お待たせ!ごめんね、遅くなっちゃって‥特訓、よろしくお願いします!」

今日の特訓に、私のユーミとしての未来がかかってるんだもの。本当によろしく頼むわよ?

「あー、そのことなんだけど‥やっぱり今日は、その、特訓なしにしてほしいの!えっと、パスっていうのは私だけ!いつも通り、ユーミは一人で特訓しててくれて構わないから!」

「はぁ?まじで言ってんの?超困るんですけど!」

あっ、やばい!つい感情的に‥

「なんかね、ついさっきね、メルス君にデートに誘われちゃったの。だから今日はパス!」

私の心配をよそに、マリアはスカートの裾をいじりつつ、耳を赤くしている。

「あっ、メルス君ね!デートね!あぁそっか‥」

メルスってたしか、この村の当主の息子よね?

余計なことしてくれてんじゃないわよ、このボンボン息子が!

「でも、何でメルス君は私のこと誘ってくれたんだろ?私別に可愛くないし‥。ユーミのこと誘ったらいいのにね?」

マリアは上目遣いで、私をチラチラ見てくる。

‥なんかこう、面白くないわね。

まあ、仕方がないわ。マリアはまだ、ほんのお子様なのよ。

「あら、何言ってるの?マリアはとっても可愛いじゃない。緊張するのは分かるけど、自分に自信を持って!私のことは気にしないで、楽しんできてね」

ぱぁーっとマリアは満面の笑みを浮かべる。

「ありがとー!ユーミ大好き!」

ぐえっ

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