第3話少女漫画とは非現実的であり現実では存在しません

ピコーンッ!


裕美、閃いちゃった♡

あれよ、よくある身体が入れ替わっちゃいました〜みたいな!そうとなれば、裕美様の本体を探しに行かないと‥


「って、そんな訳あるかい!!!」

漫画やアニメじゃないんだから!あーもう、こういう自分が受け入れ難いことが起こったときに、瞬時に現実逃避するの私の悪い癖だわぁ。

いっつも、こういうトンデモ発想してセルフツッコミ入れてる。


「はー。まじでキチガイ‥」

てか待って?この子、見たことあるような?気のせいかな?

部屋をぐるぐる歩き回る。

あ!前に会ったことが、ないな‥。どこかで見かけた?

んー‥

ふと、鏡の中の少女と目が合う。

「‥ユーミ!!」


今から2週間くらい前の仕事終わり。

その日は休日出勤の終電帰りで、最寄り駅から自宅までのいつもの道を、瀕死状態で歩いていた。

ぼんやり歩いていると、1本入った裏道に煌々とした明かりがあるのを見つけた。

私は明かりに誘われて、まるで夏の昆虫みたいにふらりと裏道に入った。

明かりの正体は、古い本屋だった。

こんな所に本屋あるんだ。しかもこんな夜遅くまで開いているなんて‥。

気になって店内に入ったが、至って普通の本屋だった。

適当に一周して帰るかぁって思ったとき、一冊の本が目に留まった。白い背表紙に、赤のキラキラした書体で『白熱!運命の恋!?』って書いてある。

「キラキラかわいい〜」

思わず手に取り、パラパラとページをめくる。

「少女漫画かぁ」

少女漫画とか、しばらく読んでないなぁ。

まあ御年32歳のレディですし?少女漫画なんてとっくに卒業しましたので〜!


‥ということで、私は『白熱!運命の恋!?』を抱えて家の玄関にいました。

自分でも意味が分かんないんだけど、いつの間にかお会計して、いつの間にか帰宅していました。まあ、買っちゃったから読んだんだけど、死ぬほどつまんなかった!


要約すると、舞台は中世の西洋諸国。

主人公のマリアという女の子と、5人のイケメン御曹司が魔法学院で出会い、恋愛に発展するストーリー。

その5人のイケメン御曹司は私たちの一つ上の学年(二年生)で、学園を牛耳ってるんだけど、そいつらのセリフがしょうもなさすぎる!

『あぁ、私のマリア。何故、貴方はこんなにも美しいんだ?この1000万ドルの夜景より、貴方の方が1000倍美しいよ』

『お前に拒否権があると思ってんの?お前は、はいかYesしか言えねーんだよ』

みたいな。5人は確かにイケメン、顔はいい。それで、5人とも実家が極太の御曹司。全員キャラが違うんだけど、揃いも揃ってセリフが痛すぎて‥。

その5人の中でリーダー的存在のレオンっていう奴がいるんだけど、そいつが女の子に対して暴言吐いたり、悪口言ったりするの。

ブスとかデブとかね。


入学当初に集団で主人公のマリアを虐めていたくせに、学園生活を送る中、紆余曲折あってマリアを好きになるの。

それで、まさかのマリアと両想いになるんだけど、もう本当に意味が分からない。

虐めっ子と虐められっ子が恋に落ちるってあり得ない。まあよくある少女漫画だけど私は凄く嫌い!だっておかしいでしょ!

私間違ってる?だってそうじゃない現実世界ならありえないでしょ?男はギャップがあっていいみたいな風習この世界にもあるけどただただ気持ち悪い


まあ胸糞悪い箇所が多々あるんだけど、読んでるうちにだんだんイケメン御曹司5人の言動がツボにはまっちゃって。

最終的には自分も漫画の中の世界にいるつもりになって、ツッコミを入れながら楽しく読んでたわ。

「何スカしたこと抜かしてんのよ」「顔が良ければ全て許される訳じゃないわ!」ってな感じでね。


まあ、それはいいとして。

問題なのは、鏡の中の少女が『白熱!運命の恋!?』に出てくるユーミにそっくりってことよ!私と同じ名前だったから、強く印象に残ってる。

改めて見ると、外見の特徴も今の服装も、漫画のユーミと驚くほど一致する。

もう、ユーミとしか思えなくなってきたわ。

でも普通に考えたら有り得ない状況よね。

でも、何かの手違いで、本当に漫画の世界のユーミになってしまったんだとしたら、このままこの世界で生きていくのもアリかも。

結婚前提だった彼氏には浮気され破局。

仕事もブラックだし、辞めるのも面倒だし‥。

元の世界に戻っても、良いことないもん。

ガチャッ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る