10-7
「すみません、王。サ・ソデが応援に来ると言ったのはうそです」
船上、テレプは深々と頭を下げた。
「ははは、問題ない。おかげで丸く収まった。数々の働き、誠に感謝する」
「もったいないお言葉です」
船を漕いでいるのは、パラオアだった。四人乗りのカヌーを漕ぐには力も技術も必要だったが、パラオアは難なくこなしていた。
「
テレプの言葉に、パラオアの手が一瞬止まった。四代クドルケッド王も一瞬戸惑い、パラオアの手を見た。スタンティムだけがきょとんとしていた。
「ええ、私も王が救えて誉に思います」
パラオアは落ち着いた声で言った。
「あれか、海竜は」
王は、枝にくるまれた岩のようなものを確認した。隙間から竜のうろこが見える。
「間違いないです」
テレプが答えると、四代クドルケッド王は大きく息を吸った。
「海竜よ! 私が諸島の王、四代クドルケッドである!」
王は大きく声を吐き出した。海竜の目が、小さく光る。
「人間の王よ、よく来た。魔法使いも一緒か。ちょうどよい。約束を交わそうではないか」
海竜の声に、王は低い声で笑った。
「その格好でか。約束を破ったらどのようなことが起こるというのだ」
「魔法使いが我を殺せなかったことからわからぬのか。我はいつか復活する。禁魔の法を模したようだが、これではいつまでも縛ることなどできぬ」
「それまで生きるということか」
「おそらく。ずっと生きてきた。これからも生きるだろう」
「そうか。では、何を約束すればいい」
ぐり、という音がした。海竜の目がぐっと広がる音だった。
「強い国にしろ。一つにまとまり、いつまでも竜と共に諸島で生き抜いてほしい。お前たちを滅ぼさなくても、守り抜ける場所にしてくれ」
「約束しよう。来訪神……と呼ばれた者たちは、お前たちを滅ぼすかもしれなかったのだな」
「そうだ。それに我は人が好きではない。いやいやに共に生きるのを許しただけだ。それに……陸竜たちとも思いを共にできなくなった。過去の威光だけでは、無理なようだ」
王は、右手をまっすぐに海竜に差し出した。
「約束しよう。けっして諸島は惑わされぬ。強き魔法使いを育て、大量の食料を得て、航海術を学び、繁栄することを誓おう。センデトレㇺ島に何者も入れぬよう、敬い努力しよう」
「口の達者な王だ。ここから私が見ていることを忘れるなよ」
そう言うと、海竜は瞳を閉じた。
竜たちが退いたことにより、ルイテルド島では新たな争いが起きていた。ルイテルドの港、スド・ルイテルドを掌握するための争いである。他の島との行き来を確保するためにも、スド・ルイテルドを利用できるかどうかは重要だった。
王の弟、クドルケッド五世の勢力が押していたが、状況が変化した。レ・クテ島の塔に、一度は下ろされた四代クドルケッド王の旗が掲げられたのである。これは、四代クドルケッド王が実権を取り戻したことを意味する。
王子派は、これを見て勇気づけられた。レ・クテ島が味方になってくれると期待できたのである。さらに数日が経つと、塔にサ・ソデ島とデギストリア島の旗も掲げられた。二つの島が、四代クドルケッド王を助けるために兵をよこしたのだと考えられた。
五代クドルケッド王の方は、レ・ペテ島と通じていた。「一部ダイヤモンドの自由取引の権利」を約束し、協力を要請したのである。その前にサ・ソデ島とデギストリア島にも話をしていたのだが、断られていた。
諸島の歴史が始まって以来の、二大勢力による衝突が起ころうとしていたのである。
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