10-6

「この後歴史に名を遺すならば、ここで私を仕留めるがいい。たった数日前に島の主となり、王弟のため、諸島のため戦ったという武名となるか、愚かな反逆者という汚名となるか。貴様次第である!」

 王は高らかに言った。島主代行は苦々しい表情でそれを聞いている。そして、手にしていた槍を兵士に返した。

「汚名ならば臆病者という名を選ぼう。皆の者、王を捕らえよ!」

 兵士たちは、戸惑った。一騎打ちへの期待は失望となっていた。

「待って!」

 その時、誰かが叫んだ。人々が声の方に目を向けると、ボロボロの服を着た少年がいた。

「我が名はテレプ、海竜を封じた魔法使いである! またサ・ソデ島に渡り、協力を要請もした。海が開かれた今、王に味方する諸島民はいくらでもいる。ルイテルド島が誰に味方すべきか、もう一度考えよ!」

 ざわめきが起こる。確かに竜たちはおとなしくなり、海竜の力が封じられたこととは辻褄が合う。しかし、少年がそれを成したというのはにわかには信じがたかった。

「子供よ、物語を空想するのが好きなようだ。お前のどこにそんな力があるというのだ」

 島主代行は呆れたように笑った。しかしテレプは、真剣な面持ちを崩さなかった。

「魔法使いとして王を御救いする使命がある。海竜は封じることしかできなかったが、人であるあなたは殺してしまうことになるだろう。それを見てみたいか」

 そう言うとテレプは、右手の中に赤い光を生み出した。

「ぬう……」

 島主代行は一歩、後ずさった。本能が、ただのはったりでないことを知らせる。

「王様ー、王様はどこにいるのですかー!」

 そこに一人の男が叫びながら駆けてきた。村の者だった。

「私はここにいる!」

 四代クドルケッド王が答えると、男はぶんぶんと手を振りながら言った。

「沖合に、ぐるぐるになって閉じ込められた海竜がいまして、王と、話をしたいと言っておりまして、魚も取らずに戻ってきた次第で!」

「その王は、私でいいのか?」

「え、王っていっぱいいるんですか?」

「いや、一人だ」

 混乱する男の下へ、王は歩み寄っていった。誰もそれを邪魔しようとはしなかった。

「よく知らせてくれた。後ほど貝宝を授けよう。テレプと言ったな、お前が海竜を封じたのならば、お前を連れて行くのが最も安全だろう。共に行こう」

「は、はい。ただ、一人で成したわけではないのです。ここにいるスタンティムの助力あってこそです。彼も同行お願いします」

「分かった。行こう。……そうだった、お前はあの者たちを、本当に倒せるのだな」

「はい」

「許すつもりはない。捕縛せよ」

「分かりました」

 テレプは右手の中の光を、島主代行と兵士たちに放った。光は膨れ上がって大きくなり、彼らを包み込んでいった。

「見事だな」

 島主代行と兵士は目を閉じて、その場に倒れ込んだ。意識を失ったのである。

「一日は目を覚まさないでしょう」

「わかった。では皆の者、この者たちを縛り、堅牢な場所に閉じ込め逃がさぬようにしてくれ。四代クドルケッド、正統なる王の名のもとに、命ずる」

 人々は、王の言葉にしたがった。

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