10-5
「漁に出る」
ある男が、浜を見て言った。
竜がいなくなっている。理由はわからないが、邪魔する者たちがいなくなっている。
長らく海に出られなかったうっ憤は、巨大に膨れ上がっていた。海が安全になったのかなどは気にせず、男は船で漕ぎ出していった。
海は穏やかだった。しばらく誰も漁をしていなかったせいか、魚たちのにおいが漂ってくる気がした。
しかし、男はすぐに気が付いた。見たことのない岩がある。いや、よく見ると岩ではない。
木の枝が絡まり合って、球のようになっている。近付いてみると、枝の隙間で目玉がぎょろりと動いた。そんなはずはないと思ったのだが、どう見ても目玉だったのだ。
「人間か」
そして、球の中から声がした。男は金縛りにあったかのように、そちらを見続けた。
「人間かと聞いている」
「は、はいっ」
情けない、夢の中で絞り出すような声だった。
「ふっ、我は生きてはいるようだ。だが何も出来ぬ。動けぬ上に魔法を封じられている。こんな情けないことはない」
その大きさ。重々しい声。男は気が付いた。これは、海竜だ。
「あ、あの。俺はただ魚を獲りたくてですね……」
「王と話がしたい」
「え」
「負けは認める。だが、こちらにも伝えねばならないことがある。王を呼べ」
「は、はいっ」
男はこれまでにないほどの力を込めて、浜に帰るために櫂を漕いだ。
「どういう状況!?」
その光景を見たテレプは、頭を抱えた。村の広場で、槍を構えた者同士が対峙していたのである。しかもそのうちの一人は、格好こそ地味なものの明らかに王だったのである。
「決闘か」
スタンティムは落ち着いていた。
「王、生きていたんですね……いやでもなんで自ら武器を」
死んだかもしれない者が生存していたこと、そして今まさに死ぬかもしれないことにテレプはひどく混乱していた。四代クドルケッド王はこれまで自ら戦いに赴いたことはなく、武芸に秀でているという話も聞いたことがなかった。「闇のお方」と呼ばれているように、外に出ることすら厭う貧弱な王だと思われていたのである。
「相手は誰なんだ」
「あれは確か……マヌクー族長。かなりの有力者です」
「まったく意味が分からんな」
「とりあえず……どうしたらいいんでしょう」
テレプは、髪をかきむしった。
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