10-4

「これは……」

 テレプは、その光景を持てあっけにとられた。砂浜には、多くの死体があったのだ。竜たちのせいで近づけず、海竜に襲撃されて以来それらは手つかずのままになっていたのである。

「ひどいありさまだ」

 スタンティムもつぶやいた。

「大風で流されてしまったものもあるでしょうね。ひどいことです。……あれは」

 テレプの視線の先には、一人の老人が立っていた。

「動いてないぞ。どういうことだ?」

「師匠……!」

 テレプは、老人のもとに駆け寄っていった。魔法使いの師匠は、魔法を唱えた時の口のまま固まって立っていた。

 服や顔は汚れていたが、腐敗などはしていなかった。テレプは恐る恐る体に触れてみたが、温かかった。

「生きている」

「お前、けっこう元気じゃないか。生きているだと……?」

 歩いてきたスタンティムが、そう言いながら老人の体をじっくりと見る。

「王を守ろうとしたんだ……死んでしまえば魔法が途切れるかもしれないから、自分も守ったんだ……さすがだ……」

「よくわからんが咄嗟にそこまでできるものか」

「できますよ。それができる人が、偉くなれるんです」

「戻せるのか」

「……強制的にはやめた方がいいですね。戻るのを待つしかありません。無理に解こうとすれば、こちらが敵と認識される恐れもあります」

「待つしかないのか」

「そうですね。師匠、戻ってくるのを待っております」

 テレプは、深々と礼をした。



「王、出てきてしまわれたのですか」

 島主代行が、四代クドルケッド王とパラオアの前に現れた。傍らには五人の兵士がいた。

「王に手出しをするな! 反乱の末ルイテルドに編入された悲しみを、再び繰り返すというのか!」

 パラオアの叫びに対して、島主代行は目をぎらつかせながら、小さく笑った。

「竜たちが大人しくなった。これはつまり、外から人が来るということだ。そして、五代クドルケッド王が即位された以上、私が許される道は一つ。あなたを逃がさないことだ」

「王に対してその口の利き方は無礼だぞ!」

 四代クドルケッド王は、パラオアを手で制した。

「よい。この者の中では、私はもう王ではないのだ。ただ言っておく。私は死んでもいなければ退位してもいない。正統な王は今も私である。五代クドルケッドを名乗る者は、正統なる手続きを以って即位してはいない。もしその者を本当に頂としたいのであれば、私をその手で殺すことだ」

 そう言うと四代クドルケッド王は、パラオアに手を差し出した。

「え、なんでしょうか」

「差し出せ」

「えっ」

「直接戦う」

 パラオアは戸惑っていたが、催促を続ける王に槍を手渡した。

「王、まさか……」

 島主代行の額に、脂汗が浮かんでいた。頬がひきつる。

「先代王たる私の首を手土産にするがよい。そうでなければ、首が切られるのは自称五代になることであろうぞ」

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