10-3

「おまえたちは、なぜ我に立ち向かう。人間でしかないのに」

 竜の声は、自信なさげだった。本当に疑問なんだろうな、とテレプは思った。

「随分な言い草だな」

「人間もブタが歯向かってきたら言いそうです」

 スタンティムは、「フフフ」と鼻で笑って、口から息が漏れるのを我慢した。

「だが、豚小屋を荒らしたなら、ブタにも言い分はありそうだ」

「そうですね。聞いてもらいましょうか」

 テレプは、腰に手を当てて海竜を見つめた。

「我に何か述べるつもりか、魔法使いよ」

「そうです、海竜。僕たちは竜に迷惑をかけました。実際には異邦人が勝手にやったのですが……あなたたちにとっては同じでしょう。それでも僕らは生命を脅かされました。抵抗するのは当たり前です。そしてあなたと違って僕らは、どんどん強くなる。あなただけの魔法では、封じられなくなりますよ」

 テレプの瞳の中に、輝く光があった。海竜は、ゆらゆらと首を揺らしていた。

「脅しているつもりか」

「そうです。あなたが僕たちにしたように、僕も実力であなたを脅した方がいいですか?」

 テレプは、左手を前に差し出した。そして、ゆっくりと手を開く。

 そこには、一つのセカの種があった。

「なんだ、その小さな種は」

「セカの種です。とても成長が早い。このように」

 薄黄緑の光が種を包み込むと、そこから芽が出てきた。緑色の尖った葉が、いくつも姿を現す。

「杖でも作るつもりか」

「あなたを杖にしましょうか。


 命の渦、爆発せよ!」

 テレプが叫ぶと、セカはどんどんと大きく長くなり、海竜へと伸びていった。海竜は海の中へ隠れようとしたが、木の枝が体をがっしりとつかみ、首を水面に潜らせない。

「うぐ……何を……する……」

「はっきり言います。僕は怒っています。ルハを、王を、諸島の人々を脅かしたこと。少しの間、静かにしてもらいます」

 木の枝が海竜を包み込んでいく。海竜は完全に動きを封じ込められた。

「おまえ、えげつないな」

 そう言うスタンティムの顔は、完全に呆れていた。

「いやあ、さすがに疲れました。もう何もできません。後は頼みます」

 テレプは、その場にへたり込んだ。

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