ナトゥラ諸島の海竜

10-1

 レ・クテ島に、唸るような声が響き渡った。それは竜のもののようであったが、声の質は人のものであった。

 海風が吹き渡るような、天から降り注ぐような声だった。神からの言葉だととらえる者もいれば、悪魔の誘惑だと感じた者もいた。

 島にいた竜たちは、一斉に動きを止めた。その声のした方に、視線を向ける。

 さらにもう一度、声が鳴り響いた。

 竜たちは完全に動きを止めるか、小刻みに震えていた。




「まったく、なんてことをやらせるんだ」

 スタンティムは愚痴った。

「あなたならばできると信じていました」

 テレプは無邪気に笑った。

「俺はただ言われたとおりに叫んだだけだ。竜にどう伝わっているのかさっぱりわからん」

「僕も伝わったのかはわかりません。が、竜たちが大人しくなりました」

 テレプは言うと、レ・クテ島とは反対を向いた。

「来たのか」

「ええ。予想通りに」

 水面が大きく揺れ、しぶきが上がった。長く緑色の首が出現する。

 海竜だった。

「怒ってるな」

「わかるものですね」

 海竜は二人を交互に見た後、荒い息を吐いた。

「グググ……やはりお前たちか」

 その声を聞いて、テレプとスタンティムは顔を見合わせた。

「海竜の言葉、あれはナトゥラの言語か」

「そうですね」

 海竜は首を伸ばした。

「お前たちは勘違いしている。この言葉は我々のものだ。お前たちの方が学んだのだ。陸に上がった者たちが、新しい言葉を作った。我々と島々の者は、直接会話ができていた」

 頷きながら、テレプは海竜に尋ねる。

「そうだとすれば、魔法も元々あなたたちのものということか」

「その通りだ」

「ナトゥラの民は、あなたたちの子供のようなものではないか」

「そんなことはない。神の要求で島を貸しているだけだ。我は決して人間たちの全てを受け入れたわけではない。よそから見慣れぬ者たちが来たの敬うなど、あり得ない話だ。しかも彼らは、われわれの聖地も汚した」

「センデトレㇺ島が聖地だということか」

「そうだ。人間は信頼できぬ。再び竜によって、島々は作り変えられるのだ」

 海竜は低く重たい声で吠えた。水面が細かく波打つ。

「『我は』と言いました。決して総意ではないということです」

 テレプは小声でスタンティムに告げた。

「だからと言って、それがあいつの弱点だということになるか?」

「なりますよ。十分に」

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