9-9

「……寝ているな」

 ルハは、テオトラの顔を確認した後ため息をついた。

 多くの病気の者は、ただ良くなるのを待つしかない。身分が高い者は、祈ってもらうことや、はらと呼ばれる人に邪気を退けてもらうことができる。しかしテオトラは身分が高くないし、村の中でも孤立している存在である。普通の「優しさ」ですら、ほとんど受けられないのである。

 ルハだけが、傍らで見守っている。

 もし、あのまま遠くに連れていかれていたら。ルハは考えた。言葉も通じない、家族も知り合いもいない中でどのように過ごせばよかったのか。今考えれば、絶望だ。しかしその時には、あまり実感できていなかった。

 テレプはよく、偉くなりたいと言っていた。それは、ルハと共に過ごすためだった。ルハもようやく、その思いが分かったのだ。偉くなければ、物のように海の外に連れ出されてしまうかもしれないし、病気の同居人を助ける者を呼ぶこともできない。

 偉い人たちは、誰が本当の王だとかで争っているらしい。虚しい。色々と虚しい。

 ルハはテオトラの手を握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る