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「竜だらけじゃないか」

 スタンティムは低い声で唸った。船に乗ったテレプとスタンティムの二人は、センデトレㇺ島から少しのところにいた。

「あんなにいたんですねえ」

 レ・クテ島の砂浜を、竜たちが闊歩している。破損した船や、無残に引き裂かれた死体なども見えた。

「上陸させない、というわけか」

 すでに竜たちは、二人の乗る船に注目していた。

「魔法を使える竜がいれば、射程圏内ですね。というか、いますね」

「そうだな」

 死体には、火傷の跡なども見えた。竜が炎でも吐かない限り、魔法によるものだと考えていい。

「足元にもいますね……」

 時折、波が不自然に揺れることがあった。大きな何かが泳いでいるのが分かったが、それは二人が知っているどの魚の泳ぎ方とも違った。

「どうするんだ」

「今更引くわけにはいきませんよ」

 テレプは、右手をまっすぐ天に掲げた。



「王、聞こえますか」

 どこからか囁きが聞こえてきた。四代クドルケッド王はきょろきょろあたりを見回した。

「答えないでください。私は初代クドルケッド王に救われた者の子孫です。私たち一族は、王に何かあった際には全力でお助けするとお約束いたしました。こうして衛兵として任されるまでは何とかなりました。しかし私一人では最後までお助けすることはかないません。ですが王、味方がいるということは覚えておいてください」

 声はそこで途切れた。

 王はふっと息を吐いて、微笑んだ。

 それは希望でもあり、あきらめでもあった。味方がいるということは、素直にうれしい。ただ、本当の孤独ならば未来を考えずに済むのだ。王としてのふるまいは、王としての彼を求める人々のためになされる。期待は、彼が王であることを辞めさせない。

 王の弟や息子は、ルイテルド島で争っている。権力が欲しいらしい。四代クドルケッド王には信じられないことだったが、王位というのは魅力的なのだ。もしくは王位に就けなかったということが、彼らの抑圧になっているのかもしれない。「俺ならばあいつよりも上手くやる」と、皆が思っていたのかもしれない。

 運命に身を任せるならば、王でなくなるのが妥当だと思っていた。「闇のお方」と呼ばれていた自分が、民から期待される器だとは思わなかった。

 ただ、現在の王は紛れもなく自分だ。四代クドルケッド王は、その役目も果たさなければならないのだと思った。再び立ち上がるにしろ、散るにしろ。

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