9-7

「お前、ルハが好きなのか」

 幼い頃、テレプは父親に尋ねられた。

「うん!」

 テレプは元気に答えた。

「それは、将来悲しいことになるかもしれないぞ」

「悲しいこと?」

「ルハとお前では釣り合わない。身分も違うし、年齢もあちらが上だ。誰かと縁談がまとまってしまえば、お前に止めることはできない」

「やだ」

「じゃあ、何かで偉くならないといけない。誰かにとられる前にな」

「わかった」

 その日以来テレプは、「偉大な魔法使いになる」ことを将来の目標にした。単に習うだけでなく、自ら新しいものを作り出そうとした。

 日々、テレプは上達していった。レテの扱いが上手く、勉強熱心で、常に前向きだった。

 いずれ、島主や王家に仕えるような魔法使いになる。テレプはその思いで生きてきたのだ。

 早朝、目が覚めたテレプは幼い日のことを思い出していた。偉くなって、ルハと結婚する。魔法使いとして研鑽するのは、そのための目的だった。だが、今求められているのは違う。魔法によって、ルハを救い出すのだ。

 気力は満ちている。体もよく動く。

「テレプ、目覚めたのか」

 スタンティムの声がした。

「ええ。浸水しなかったでしょ?」

「そうだな」



「セドの実を獲ってきたぞ」

 ルハは大きな声で言ったが、返事がない。

「あれ、出かけたのか?」

 家の中に入っていくと、テオトラは衣服を抱きかかえながらぐったりとうなだれていた。

「ああ、ルハ、おかえり」

「おい、顔色が悪いぞ。どうしたんだ」

「ああ、繕わなきゃと思っていたんだけどね。しんどくなって」

「横になってろ。服は私がやっておく。休んでおけ」

「ルハ、苦手なことはしなくていいよ。服は放っておいて」

「わかった。とにかくテオトラは無理をするな」

 テオトラが横になったのを確認すると、ルハは水を汲んできた。そして、テオトラの手を握った。

「びっくりした。こんなことをしてくれる子だとは思わなかったよ」

「私はよくしてもらっていた。気力を分けて、早くよくできるって」

「私はゆっくり良くなるよ。ルハの気力を貰うのは申し訳ない」

「いいんだ。黙って早く寝ろ」

 ルハは唇を嚙んだ。

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