9-6
「ふふふ。忙しくない」
幽閉された部屋の中、四代クドルケッド王は苦笑した。
王になって以来、何もしなくていい日というのはなかった。それが今は、ただ閉じ込められているだけだ。
ナトゥラ諸島では、権力闘争は繰り返されてきた。現在の王家も、英雄アートゥル王の一族を滅ぼして成立したものである。いつまでも王でいられるなどということは、保障されていなかったのである。
異邦の民が来たり、海竜が現れたり。激動の日々だった。住み慣れない場所で、支えてくれていた人々も失い、孤独の中で奮闘してきた。
解放されたのだ。
四代クドルケッド王は考えた。息子の一人は捕まったという。おそらく処刑されるだろう。別の息子の一人は、五代クドルケッドを名乗ることになった弟に味方したという。いずれ邪魔になって、処刑されるだろう。
自分はどうだろうか。
殺されることはないのではないだろうか、と楽観的な予想をする。理由がないからだ。ただ、理由など簡単に作れることも知っている。
海竜に襲われたあの時、老魔法使いが身を挺して四代クドルケッド王を守ってくれた。王であることで、命が救われたのだ。次は王であることで、命が短くなっても仕方ない。
それでも。何かに希望を抱きたい、という気持ちも王にはあった。ナトゥラ諸島の未来をもっと明るくしたい。王はそう考えてきた。報われてもいいんじゃないかと、そう思った。
「ああ、やっぱりあった」
「大丈夫か、沈んだりしないのか」
テレプとスタンティムは、無人島の洞窟に来ていた。その島には特に名前もない、とテレプは言う。センデトレㇺ島の周囲には大小いくつもの岩でできた小島があり、二人が訪れたのはその一つである。
「満潮でこの状態なので、よほどのことがない限り大丈夫でしょう」
「よほどのことはあり得ると思うのだが」
「ないように祈りましょう」
二人は協力して、洞窟に船を引き上げる。外は暗くなり始めていた。
「ここまで来てレ・クテ島に戻らなくていいのか」
「魔法を存分に使える状態にしておきたいんです。何があるかわかりませんからね」
二人は洞窟の中で、灯りも点けずに過ごした。魔法は一つも使わないようにしたのだ。
「お前はレ・クテ島はどうなっていると思う?」
暗闇の中に、スタンティムの声が響いた。
「大変なことになっているでしょうね。王が死んだかもしれない。島主が死んだかもしれない。その臣下達も死んだかもしれない。再び海竜が襲ったかもしれない。諸島始まって以来の混乱かもしれません」
「俺も大変なところに居合わせたものだ。まあ、大きな原因の一つと言われればそうなのだろうが」
「そうですね。来訪神……と呼ばれていた人々には腹が立っています。けれども、それは巡り合わせ。僕らはそもそも、竜との関係をもっと考えなくてはならなかったのです」
「答えは見つかっているのか? 竜との関係」
「わかりません。ただ、あの海竜を何とかしなければならないことは確かです。僕らを傷つける者とは、戦わなければなりません」
テレプの目つきはいつになく鋭くなっていたが、光のない世界ではスタンティムに見られることはなかった。ただ、スタンティムも「言葉から伝わる鋭さ」は十分に察知できた。この少年――いやもう、少年ではないのだろう――は、何かを成し遂げるに違いない。彼はそう確信した。
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