9-5

「着いたはいいが……雨風は全くしのげんぞ」

 二つの三日月がつながったような無人島、リンデリンデ島。そこにテレプとスタンティムは上陸していた。

「陸地があるだけが救いですね」

 ここは、二人が最初に漂着した島でもある。高い木々もなく、見通しのいい小さな島である。美しい砂浜と、積み上げられた死体が見える。

「いいのか悪いのかわからん景色だ」

 深く黒い雲が空を覆っていく。風は二人に目がけて吹いているようだった。

「何か向かってきます」

 海から、砂浜に上がってくるものがあった。緑の大きな体が、少しずつ姿を現す。テレプとスタンティムは、それを見つめながら身構えた。

「竜だ……」

「海にいる……陸竜?」

 その大きさや見た目は、どの島にでもいる竜だった。だが、現にそれは海から這い上がってきたのである。

 竜も、じっと二人の人間を見つめた。

「ひょっとしてここは……あなたの島ですか?」

「竜に聞いているのか」

「伝わってないですね。――あなたは島を守っていますか?」

「どういうことなの!?」

 竜が喋った。スタンティムにも、竜の言葉が分かった。そして、テレプが完全に翻訳の魔法を使いこなしていることに驚いていた。「上手い」のではない。完璧なのである。

「僕らは海竜と敵対していると思います。あなたはそういう関連で今僕らを見ていますか?」

「黙っとけとは言われていないからなあ。確かにそうだよ。君たちは危険だから、ちゃんと見ておけって。場合によっては、海の底に沈めろって」

「僕はナトゥラの民として、そこには不満があります。こちらの彼だけが敵ということはないですか?」

「おい」

 スタンティムは不満を表明したが、内心仕方ないとも思っていた。確かに竜にとっては、外からやってきた得体の知れない人間である。

「詳しいことはわからない。水の中に住んでいたので、あなたたちの見分けもよくつかない」

「それならば、覚えておいてください。僕らは、人助けをしたいんです」

 テレプが両手を掲げると、白い靄のような光が竜を包んだ。竜はゆっくりと瞳を閉じて、その場で体を丸めた。

「あっさり眠らせたな」

 少し呆れている様子はあったが、もはやスタンティムは驚きもしない。

「いや、そもそも眠そうだったので。寝る時間に僕らが訪れてしまったのかもしれません」

「なんで竜の眠気がわかるんだ」

「……なんでだろう」

 雲間から、光が差し始めた。




「どういうことだ」

 四代クドルケッド王は困惑していた。部屋の中に兵士がなだれ込んできて、王に槍を向けたのである。

「許してください、王」

 兵たちの後ろにいたのは、島主代行である。

「許せることだと思うのか?」

「ルイテルド島から報せがありました。カルハシュ王子は捕縛され、正式に五代クドルケッド王が即位されたと」

 四代クドルケッド王は両手で髪をつかんで、唇をゆがめた。話の流れからして、即位を宣言したのは弟である。そして、また一人の魔法使いが伝達のために犠牲になったかもしれない。

「つまり私は……今は何なのだ?」

「先王。習わしにより、混乱を避けるため退位した王は幽閉されることになっております」

「先日までは私に娘を嫁がせると言っていたな」

「五代に嫁がせます」

 四代クドルケッド王は、抵抗しなかった。

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