9-4

「何かおかしくないか」

 あたりの様子を見回して、スタンティムが言った。

「感じましたか」

 テレプは落ち着いていた。

「レテの流れが……変だ」

「おそらく、海竜の影響でしょう」

 二人が感じているのは、規則正しいレテの流れだった。生物の死体から流れ出るレテは、そのままでは本来不規則に漂う。

「こちらを探っているのか」

「そうでしょう。蜘蛛の糸のように捕まるのを待っているように思います」

「ここで襲われたらたまらんぞ」

「祈るしかないですね」

 二人は、見覚えのある島を視界にとらえた。レ・ペテ島である。今度はそこを目指すことはない。

「ということは……ここを越えたらリンデリンデ島か」

「そうですね。ただ、今回は立ち寄りません」

「無人島だしな」

「いつか墓参りはしましょう」

 空が暗くなってきた。雲が増えてきて、色が濃くなっていく。

「これは……どっちだ?」

 スタンティムは、空を見上げて眉をひそめる。

「わかりません。予定変更ですね、リンデリンデ島に向かいましょう。天候の回復を待ちます」

 二人の乗った船は、リンデリンデ島の方へと舵を切った。




「どうにかならないのか!」

 レ・ペテ島の近くを通り過ぎる頃。その島では、島主たちが会議をしていた。

 ダイヤモンドの採掘場が竜に封鎖されたのみでなく、港にも多くの竜が集まってきていた。島主はそんな状況にイライラしていた。独立すら望めたところに、大きな障壁が現れたのである。さらに、捕らえたはずの魔法使いたちを取り逃がしてしまった。

「すぐにはどうにも……」

 配下の者たちは、渋い表情をしていた。彼らは竜と戦うための力を全く持っていなかったのである。

「報告します。島の近くを通る船の姿が確認できたとのことです」

 伝令の男が、人々が話し合いをしている場にやってきた。島主は一瞬その男を睨みつけたが、すぐに落ち着いた顔になる。

「それはどちらに向かう船だ」

「北に向かっているようです」

「またか。やはりデギストリアか」

「それが……とうも、逃げたあの二人に似ていたとのことです」

「何だと! 戻ってきたのか!」

「おそらく」

「図太い奴らめ! 今つぐとっ捕まえてやりたいが……」

 海を望むことはできても、出航することはできない。ダイヤモンドを採ることも売ることもできない。いいことが何もない。

 島主は頭をかきむしった。

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