9-3
「追ってきました」
「早い」
テレプとスタンティムの乗った船は、浜から少し離れたところにいた。スタンティムが必死に櫂を漕ぎ、テレプは後方を見つめていた。そして、彼らの乗った船を追いかけて、二艘の船が漕ぎ出されていた。
「しっかり捕まっていてください」
「え」
テレプは船の中でかがんで、両手で強く船の枠をつかむ。その様子を見て、スタンティムも櫂をしまって身をかがめた。
「風の巻く時に生まれるもの……」
「えっ、おいっ」
呪文を唱えるテレプを見て、スタンティムは狼狽した。テレプいわく、ナトゥラ諸島の魔法は、呪文を唱えることによって巨大になりすぎるのだ。
「放たれよ」
強い風が生まれ、大きな波が生み出された。二人を追いかけようとした船が、浜へと押し戻される。
「普通だった……」
「うまく調整できました。ずっと、これをやりたかったんですよ」
「これも真似したものか。しかもコントロールの部分を」
「新しい魔法を覚えるよりも楽だと思いました」
スタンティムは櫂を握りながら、呆れたようにため息をついた。
「何の話だ?」
王は、思わず怖い顔で尋ねた。伝えに来た者が怯んだのを見て、反省して笑顔になる。
「あ、あの。そのような話がありまして」
相手は、島主代行の配下の男である。王に会えるギリギリの存在であり、場合によっては処刑されても仕方のない身分でもある。
「私がこの島から抜けられなかったら、という前提なのだな」
「そうだと思います」
「確かにその可能性もある。しかしまだ、それを考えたくはないな」
「は、はい」
「一応考慮はしておく。下がっていいぞ」
「はい」
男は逃げるように部屋を出て行った。
「妻、ね」
提案されたのは、「レ・クテ島で家族を持たないか」というものだった。他島からの助けは入れず、誰かがレ・クテ島から出て行くことも成功していない。ずっとこのままの状態が続けば、王はこの島に留まり続けることになる。
権力を保ち続けるためには、レ・クテ島で家族を見ち続ける必要がある。あるいは、ルイテルド島の王家と戦うことになるかもしれない、とまで島主代行は考えているし、王もそれには同意だった。
とはいえ。
「そこまでしてはねえ」
権力闘争に明けくれる未来は考えたくなかった。だが、どちらにしろ逃れられないのかもしれない、とも思った。
ああめんどくさい。それが四代クドルケッド王の一番強い感想だった。
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