帰還

9-1

「四代クドルケッド王の正統なる代理人は私である!」

 王子に率いられた人々が、王宮の近くに集結していた。

 レ・クテ島に王の旗が上がったことにより、王の無事が確認され、人々に安心感を与えることになった。だが、ルイテルド島に王が不在であることに変わりはない。代理人の座を巡って争いは続いていたのである。

 王弟に付く王子が現れたり、王子を支持する族長が集会をしたりと、混乱は続いていた。

 大人の男たちが兵士として招集される。その代わりの仕事を女性や子供がすることになる。日常的な細々としたことが後回しになる。

「まったく、威勢のいいこと言いやがって、内輪もめしているだけじゃねえか」

 大量の芋を運びながら、ルハは悪態をついた。あまりにも忙しいので、普段はテオトラが頼まれない、よその収穫を手伝っているところである。テオトラは体調を悪くしており、なかなか力仕事は手伝えない。彼女の代わりとなって、ルハは力の限り働いていた。

「めったなことは言うんじゃねえぞ娘」

 畑の持ち主である男が、ルハを注意した。王族に逆らうことは許されなかったし、誰が次の王になるかもわからない。どれだけ不満があっても、全面的に従うしかないと皆思っていたのである。

「はいはいはい」

 適当な返事をしながら、ルハは芋を運び続けた。




「もうこんな生活は嫌だ……」

 木に寄りかかりながら、スタンティムがこぼした。

 テレプと二人で森に入って五日目。何とか水や食料は入手出来ているものの、満足なほど、というわけではない。体力も気力も減少していくばかりである。

「では、そろそろ行きましょうか」

 テレプも元気いっぱいというわけではなかったが、表情には余裕があった。

「どこに行くんだ?」

「浜に行きます。レ・クテ島に戻るんですよ」

「船を奪う算段は付いたのか?」

「普通に返してもらいましょう」

「無理だろ」

「交渉するんですよ。そのための五日間でした」

 テレプは、にやりと笑った。

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