8-7
「よく見えないですが……死体……?」
テレプにはそれは、木の妖精のように見えた。木と一体になった人間が、穏やかにほほ笑んでいるように見えたのである。だが、スタンティムは首を振っていた。そしてテレプの手を取った。
「――!」
何を言っているかわからなかったが、怯えているのはテレプにもわかった。
二人は大木から離れていった。
「ここまで来たら大丈夫でしょうか?」
「ああ……随分来てしまったな。だが、あれはやばい」
言葉が通じたということは、テレプがレテの流れを制御できているということである。二人は小さく頷き合った。
「僕はそんなに夜目が効きませんから、詳しくは見えませんでした」
「見えないのは幸いだ。あれは禍々しいものだ」
「そうなのですね……」
「おそらく、生きながらに埋められた者たちだ。しかも、魔法使い」
「やはりそう思いますか」
「あれが、禁魔の中心だろう」
テレプも、その実態がつかめてきた。かつて魔法使いたちが反乱を起こした島は、鎮圧された。その後、誰も魔法が使えないようにしたのだろう。一般的には、「魔法使いがいなくなった」と言われている。しかし、違ったのだ。レテの流れを操作することによって、魔法を使えなくした。何人かの魔法使いが集まり、死してそれを成し遂げるような「何か」をしたのである。
「死んだ後も続く魔法というのは聞いたことがありませんが、実際あるということなのでしょうね。そして今も強く……。おそらく、大きな魔法を使うことはできません」
「流れに逆らう者が現れるだけで想定外だろうよ。いや、力が弱まってきているのかもしれないが」
「今この島には、魔法使いはいないでしょう。誰も試さなかっただけかもしれません」
「しかしあれを見つけたからと言って、どうすることもできないぞ。真似できるようなものじゃない」
「そうですね……ただ、そういう種類のものがあると分かったのは収穫です。レテの流れを操作して、相手に魔法を使えさせなくする術がある。希望があるじゃないですか」
「前向きだなあ」
テレプは、強く拳を握ってみせた。
「いざとなったら使うのか? そのようなものを?」
四代クドルケッド王は、一人の部屋でうなだれていた。
老魔法使いから聞いた禁魔の法は、おそらく海竜にも効果的とのことだった。しかし、その発動方法がとても信じられないものだった。
複数人の魔法使いに魔法を唱えさせ、死してなお効果が途絶えないようにする。「魔法を使い続ける塊」となって、レテの流れをコントロールし続けるというのである。
すでに、伝令のために一人の魔法使いを失っている。王はそのことに心を痛めていた。
「どれだけの犠牲のもとに、諸島は成り立っていたというのだ……」
いっそ、このままがいいのか。竜たちに睨まれながら、細々と暮らしていくのが。ルイテルド島のことにはかかわらず、レ・クテで暮らしていくのが。
王としての役目とは何か。何を求めればいいのか。
王は苦悩し続けた。
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