8-6


「やりたい放題だな」

 熟睡する衛兵を見ながら、あきれたようにスタンティムは言った。

「魔法を使うという想定がないですからね。『使えない』と思い込んでいれば、対策もしません」

 二人は世闇の中、村を抜け出した。新月の夜、二人の姿は完全に隠れていた。森に入り完全に村から見えなくなったところで、スタンティムは魔法で光を作り出した。

「で、どこを目指しているんだ?」

「真ん中です」

「適当だな」

「いえ、島に効率よく禁魔の仕掛けをするなら、中央が効率いいはずです。誰も行かないような場所ならばなおさら」

「行ってどうするんだ」

「仕掛けを探ります。使えるかもしれない」

 テレプの額に汗がにじんでいた。息遣いも荒い。

「疲れているな。無理をしているのでは?」

「レテの流れを変えながらはきついですね」

「一回やめるんだ。月明かりがある。俺についてこ―――」

 二人は目を合わせた後、噴き出した。

 スタンティムは、時折振り返りながら進んでいく。テレプは、それについていく。



「禁魔の法?」

 老いた魔法使いの言葉を聞いた四代クドルケッド王は、首をひねった。

 王はこれまで様々な伝承を聞いてきたし、今回レ・クテ島の言い伝えも数多く収集した。しかしそのどこにも「禁魔の法」なる言葉はなかったのである。

「はい。わしの家に伝わるものです。じさまはデギストリア島におりまして、禁魔の法を実行するのに携わったと言われています」

「その法のせいで、デギストリア島では魔法が使えないのか」

「はい。魔法を使えなくすることで、忠誠を示したのです」

「王家にも伝わらぬとは」

「戦争に使われては困るということですな」

「確かに今、竜との争いに使えるかもしれぬ」

「ただ……代償も大きいのです」

「代償?」

「だからこそ、秘めてきたのです。わかっていただけますか」

 老魔法使いの目は、澄んでいたが歪んでもいた。

「……なんとなく、察することはできる」

 王は、目をつぶって唇をかんだ。



「――!」

 スタンティムが、思わず叫んだ。

 テレプに言葉が通じないのを思い出し、振り返って自らの口を指さした。

「何か見つけたのですか?」

「――……」

 二人は見つめ合った。テレプは右手を横に振る。

「―――――――」

 テレプは、どれだけ頑張ってもレテの流れを操れなくなっていた。そのため、スタンティムの言葉もわからないままである。

「強すぎる力が……」

 月明かりの下、巨大な一本の木が見えた。視線を落としていくと、根元の方は異様な形状をしている。

「顔……?」

 暗くて分かりづらかったが、人の顔があるように見えた。しかも、いくつも。

「――」

 スタンティムは、歯を食いしばった。彼の方が夜目が効くため、はっきりと見えたのである。

 大木のウロに、人々が埋め込まれていた。

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