8-4
「うーん、困りましたねえ」
スタンティムを見ながら、テレプは首をひねった。少しでもスタンティムがナトゥラの言葉を覚えられれば、と思ったがその方法がよくわからなかったのである。そもそもナトゥラ諸島には、「外国語」という概念がほぼない。
「――」
スタンティムが何か言うが、テレプには当然意味が分からないままである。
「不思議なものですねえ。同じ海にあるのに、全く言葉が違う。……というのも、伝わっていないんですよね」
テレプはため息をついた。悩み事は一つだけではない。スタンティムとともに、テレプも魔法を使えないのである。これでは、デギストリア島は最も海竜を迎え撃てない場所ということになってしまう。
ただ、海竜もまた魔法を封じられるのだろうか、とテレプは疑問に思う。波打ち際ではスタンティムの言葉が通じたことを考えると、その可能性も低い。相手だけが魔法を使える、というのは最も都合が悪い。
「島を訪れた理由」を聞かれたテレプは、「ここが最も安全だと思ったからです」と答えた。本当のことを言えば、拘束されるかもしれないと思ったのである。何せ、禁魔の島で魔法を使おうというのだから。
「この原理がわかればいいんですが。禁魔を相手に使えれば、とても便利だ」
スタンティムに相談することはできない。テレプは一人で考え続けた。
「予言が当たってばかりなのは、悲しいものね」
村の外を眺めながら、レアカはつぶやいた。
竜たちが、戻ってきたのである。そうなるだろうとレアカは予言しており、人々も心構えはできていた。
ただ、村の中の方で人々がざわついていた。
「どうかしましたか?」
その場にいた義父に、レアカは質問した。
「内の竜までは、予言できなかったか」
「いつも言っているように、神様は全てを知らせてくれるわけじゃないのです」
人々は、竜の子が飼われている柵を取り囲んでいた。レアカと義父もそちらに行く。
竜の子の目から、涙が流れていた。時折、高い声で「クッ」と鳴いた。
「帰りたがっているのでしょうか?」
「まだ体が治りきってない。それに、なんか違う気がするぞ」
レアカは竜の子の青い瞳と目が合った。涙は流れ続けている。そして、少しだけ睨まれたようにレアカは感じた。
「何か葛藤しているように見えます」
レアカは竜の子に手を差し出して、その背中を撫でた。竜の子はそれを振り払って、爪を立てた。
「痛い」
「大丈夫か!?」
「少し血が出ただけです。それに見てください。もう、怒ってはいない」
「撫でたから怒ったのだろうか」
「多分……優しくしたから」
「えっ?」
「竜はきっと、義理堅いものなのです。かつて竜を助けてこの島に住めるようになったように……この竜の子も、私たちを助けなければならないと考えているかもしれません」
「そこに葛藤が生まれるのか?」
「海竜の命令に魔法の力があるならば……きっとそうなのです。考えればほかることは、神は教えてくれませんから、私たちで答えを見つけましょう」
レアカは、竜の子に対して微笑んだ。
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