8-3

「ここでしばらくお待ちください」

 テレプとスタンティムは、浜辺近くの村に連れてこられた。その中の一件、「集会所」と呼ばれる家の中に招かれた。

 スタンティムはずっと黙っている。魔法が封じられ、言葉が通じなくなったことを自覚しているのである。

「わかりました」

 二人を連れてきた男は、部屋を去っていった。テレプはちらちらとスタンティムの方を見る。

「――。……」

 思わず声を上げたスタンティムだったが、ばつが悪そうな表情をして、再び黙ってしまった。

「ふむ、お待たせしたな」

 しばらくして現れたのは、背の高い痩せた男だった。

「恐れ入ります」

「私の名はティミ。監視官をしている」

「僕の名前はテレプです。レ・クテ島の魔法使いです。こちらは……スタンティム」

 テレプとスタンティムが目を合わせた。テレプが小さく頷く。

「そちらの方は、諸島の出身ではないと聞いた」

「はい。来訪神と呼ばれた者たちの一人です」

「なるほど。レ・クテ島は現在出入りできないようだが」

 ティミの目が、ぎょろりと動いてスタンティムからテレプを見た。

「はい。僕らは海竜の魔法でリンデリンデ島付近まで飛ばされました」

「何と……にわかには信じられませんね」

「そうかもしれませんが……僕らは、レ・ペテ島からサ・ソデ島を渡ってきました。何とか海竜を抑え込んで、王や皆の無事を確認したいと思っています」

「なるほど。ですが、魔法使いでもあるのにここに訪れるとはどういうわけですかな?」

「それは……」



 三人の魔法使いが、浜辺の見える丘にいた。そこには竜が何匹もいる。

「いったいあれだけの竜、島のどこにいたのか」

 少し後ろから見守っているのは、四代クドルケッド王だった。行脚の時とは違う、腕の露出した衣装を身にまとっていた。戦闘用の正装である。

「決行するのですか」

 傍らにいるのは、豪華な兵装を纏った屈強な男だった。新しいレ・クテ島の兵士長だった。前任者は海竜の魔法で現在行方不明である。

「ああ。これ以上何かを待っているわけにはいかない。では、頼んだぞ、魔法使いたち」

 王が言うと、三人の魔法使いたちがいっせいに右手を天に掲げた。青、白、黄色の光が生じ、三つが空中で混ざり合う。

「初めて見たが、壮観だ」

 様々に色を変える光が、浜の上空に広がっていく。光に気づいた竜たちの首が、上を向いた。

 光が、瀧のように降り注いだ。竜たちの動きが、一瞬止まる。だが、彼らは光を振り払うようにして、戒めから解き放たれた。

「むりだったか」

 王は、顔色を変えずに言った。

「報復されませんか? 大丈夫ですか?」

「その時には、竜たちの意志がわかる。どちらにしろ、ゆっくり殺しに来るか、急いで殺しに来るかの差だ。いつかは全面対峙することになる」

 王は、重々しい口調で述べた。

 内心彼は、がっかりもしていた。三人の魔法使いによって成される戒めの魔法は、強力なものとして伝承に残っている。そして先ほどそれを成した三人は、現状レ・クテ島で最も優秀な魔法使いたちだったのだ。

 次の策はいったい何なのか。余裕のある表情を作りながら、王は必至に考えた。

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