8-2

 高い場所はないが、デギストリア島は砂浜だらけということもない。木々が生い茂っていたり岩場になっていたりで、簡単には船を着けられない。

「港はどこなんだ」

「この裏……のはずです」

 テレプとスタンティムの乗った船は、ゆっくりと島を半周した。そして、白い砂浜が見えてきた。

「何か……変な感じがしませんか?」

「する」

 二人は首をひねった。テレプは胸に手を当てて、その気持ちを何とか言語化しようと試みたが、適切な言葉が思い浮かばなかった。

 砂浜にはいくつもの船が並んでおり、そのうちの一艘を整備する男の姿があった。男は二人を確認すると眉をひそめた。

「それほど警戒をしているようではないですね」

「ああ」

 テレプは手を挙げ、にっこりとほほ笑んだ。船を浜に上げ、男に対して頭を下げる。

「僕はレ・クテ島のテレプと言います。こちらは僕の同行者です」

「――スタン―ィム――」

 男とテレプが、同時にスタンティムの顔を凝視した。聞いたことのない響きの声が、彼の口から飛び出てきたのだ。そして、スタンティムも目を丸くしてテレプのことを見ていた。そして、何歩か後ずさった。水際ギリギリに立つ。

「聞こえるか」

「ええ」

 スタンティムがテレプの横に戻る。

「――?」

「スタンティムもしや……魔法が打ち消されている?」

 テレプは、まじまじとスタンティムの顔を見た。

「――! ――――」

 スタンティムが身振りで何かを伝えようとしているが、テレプにはさっぱりわからなかった。

「お前さんたち、魔法使いか」

 浜にいた男が、二人に声をかけた。

「はい、実は……」

「そっちの人は、それで困ってるわけだ」

「そうなんです。禁魔の地とは知っていたのですが、彼は常に発動している特殊なものでして」

「それは残念だったな。この島の中では魔法が使えねえ」

「使ってはいけないのではなくて、使えないんですか?」

「そうだ」

 テレプは頭を抱えた。水際まで下がって話を聞いていたスタンティムも、頭を抱えていた。




「禁魔の地と言ったって、黙って魔法使ってもばれないよね?」

 後の四代クドルケッド王である王子は、爺やにそう言った。

「ところがです。かの島では、魔法が全く使えなくなってしまったのです」

「え、使おうと思っても?」

「そうです。ですから、誰も違反できない状態ですね」

「どうしてそうなったの?」

「それがわからないんですな」

「そんなことある?」

「どこかには伝承が残っているかもしれません。しかし王宮には残っていない」

「ふうん」

 王子は、それ以来ずっとデギストリア島のことが気になっていた。それは、王になった今もである。

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