デギストリア島

8-1

 デギストリア島が禁魔の地であり、かつて反乱がおこったことはナトゥラ諸島の誰もが知っている。しかしその詳細は、あまり知られているとは言えない。

「どんなことがあったと思いますか」

 教育係の爺やは、いつも優しく問いかけてくれた。幼き日の、四代クドルケッドになる前の王子はしばらく考えてから答える。

「税が重くて、それで反乱したのかな」

「そういうことも、よくありますね。しかしデギストリア島では、そうではなかったと言われています。今ほど諸島は統一が進んでおらず、魔法使いたちが自由を求めたのです。一説には、かなり迫害されていたとも言われています」

「迫害? あんなに素晴らしいことができるのに?」

 爺やはしばらく天井を見た後、視線を王子に戻した。

「素晴らしいことばかりとは限らないのです」

「誰かを攻撃したの?」

「攻撃するかもと思われただけで、恐ろしいのです」

 そう言うと爺やは、傍らに置かれていた丸い貝殻を王子の頬に近付けた。

「もしこれがとげとげだったらどうですか?」

「いやだ」

「でも爺やは、決して王子を傷つけませんよ。知っているでしょう?」

「だけど嫌だ。物騒なものはしまってほしい」

「そうなのです。人々はしまってほしいと思っていたのです。そして時には、何もしなくても傷つけたと主張したのです」

「なんで?」

「畑が荒れた時。家畜が死んだとき。雨が降らなかったとき。疫病が流行ったとき。魔法使いの力のせいだと民衆が主張したのです」

「ひどい」

「ひどいですね。だから魔法使いたちは怒って、自分たちの国を作ろうとしたのです」

「悲しい話だ」

「悲しい話です。結局デギストリア島の反乱は鎮圧されて、魔法使いたちはつかまりました。そしてデギストリア島では、魔法を使うことが禁じられたのです」

「使うとどうなるの?」

「さあ。どうにかなった話は聞きませんね」

「どうなるのかなあ」

 後の四代クドルケッド王である王子は、腕を組んで思案した。




「デギストリア島は、すんなり入れると思うか?」

「わかりません。入れなかったら戻るしかないですね」

 テレプとスタンティムの二人は、交代にオールを漕いでいた。魔法を使わないで進んでいた。

「ここで海竜が現れたら終わりだ」

「むしろそれなら、追われているのだとわかって嬉しいですね。必ず出会える」

「俺は逃げ出したいね」

 海は静かだった。時折魚が跳ねて、波間から姿を現す。スタンティムは一度手を伸ばしたが、捕まえられるはずもない。

「釣りはしますか?」

「あまりしないね。俺の育ったところでは、漁は漁師のものだった」

「そうなんですね」

「海にも境界線があったのさ。どの家がどこまで権利がある、ってね。勝手には海藻の一本も獲れなかった。釣りをするのは、頼まれて手伝うときぐらいか」

「まあ、やり方は知ってるんですね」

「そうだな。何で今聞いた?」

「いや、僕が死んだらスタンティムはさまようことになるかもしれないって。魚を獲りでもしないと、海の上で生き延びるのは無理でしょうね」

「何の心配だ」

「海竜に殺されるか、捕まって殺されるかよりは、それを選ぶかもしれないじゃないですか。だから、そうならないように僕がちゃんとしないと」

「なかなか予想外の責任感だ」

 二人の視界に平べったい島が入ってきた。デギストリア島である。

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