7-6
「スタンティムはどうしますか?」
二人の部屋。テレプは尋ねた。
「この後のことか」
「はい」
「正直、悩んでいる」
無人島からの脱出。レ・ペテ島からの逃亡。そこには、協力する理由があった。しかしここから先は、スタンティムがテレプと行動を共にする理由はない。
「この島に残るのがいいかもしれませんね。少なくともレ・ペテ島には行けなさそうです」
「レ・クテ島にも、だ。俺は海竜を怒らせた異邦人ということだろうから」
「そうですね。ならば……最初の目的を重要視してみませんか」
「最初の目的?」
「外の世界を見て回ることです」
しばらく真顔になっていたスタンティムは、盛大に噴き出した。
「今そんなこと言うかね!」
「大事なことです。それがなかったら、遠いところまで旅をしてきたこと自体がばかばかしくないですか?」
「俺は好奇心旺盛な少年じゃないぞ」
「好奇心旺盛な少年より、好奇心旺盛な大人の方が夢をかなえる力があります」
スタンティムは、右手を額に当てて左目をつぶった。片目で、魔法使いの青年を見つめる。
「魔法を使うのがばれて、勧誘までされるとは思わなかったよ」
「報酬を出すことはできません。あくまで、そうしてはどうかと言っているだけです」
「ふっ。俺は別に、この島に引き留める人もいないからな」
スタンティムは、ゆっくりとニヤついた。
「いいのか、レアカ」
そう聞いたのは、彼女の義父だった。
レアカは、若くして結婚した。親同士の決めた結婚で、特に好きだった相手でもない。ただ、嫌いだったわけでもなかった。淡々とした日々が続くかと思われたが、病が男を襲ってからは、命を奪うまではあっという間だった。
若くして未亡人となったレアカには、次なる縁談の話もあった。だが、彼女はこう言ったのだ。「不幸に免じて、今度は私に決めさせてください。静かに一人で波の音を聞く時間を得たいと思います」
毎日そのようにして海と対峙しているうちに、レアカに神の言葉が下りてくるようになった。昔から時折未亡人にはそのようなことが起こっていた、と伝承は残す。
彼女は神からの言葉を受け取る、祈り部となったのである。
それは青天の霹靂でもあったが、レアカにとってはほっとすることでもあった。祈り部という役割があれば、独りでいることは普通になる。村には同じ世代の独身男性はおらず、いつか違う村や島へ嫁いでいくという未来を覚悟していた。祈り部ならば、村に縛られるという理由ができる。
だが、亡くなった夫の家族は、レアカがいつまでも一人でいることはいけないと思っていた。亡くなった者の亡霊に捕らわれてしまうと思ったのである。
「問題ありません」
細い声で、レアカは言った。
「お前はもっと自由にしてもいい。俺の口からこう言うのもなんだが……初めての気持ちなんだろう?」
レアカは少し目を泳がせた後、義父をまっすぐに見つめた。
「そうだからこそ、わかります。テレプの想う気持ちも、とても強いのです」
「そうか。本当にそれで納得するのか?」
「納得するかは……わかりません。でも、気持ちの揺れを経験できるだけでも、心地よいです。生きていると、わかります」
義父は、それ以上は何も言わなかった。
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