7-5
「竜の子を預かるのは、幸運のしるしと言われいるの」
レアカは言った。
村に連れてこられた竜の子は、広場に作られた柵の中で大人しくしていた。水やバナナを与えると、ゆっくりと口にした。人々は、それを囲んで眺めている。
「この間まで竜に襲われていたのに、助けるのは変な気分だ」
テレプは言った。
「そうは言っても、単純に助けたくはならない?」
竜の子は、うるんだ目をしていた。小さな体は、大人の竜よりも丸みを帯びている。子どもたちが、竜の背中に触れようとして大人にたしなめられている。
「見た目だけに騙されてはいけないけれどね。来訪神と呼ばれていた人たちが、センデトレㇺ島に入ったんだ」
「もしその人たちに子供がいれば、今でも無条件に助けようとするはず」
テレプは首をひねった。納得していない表情である。
「俺は、最初見た時恐れたよ」
スタンティムが言った。
「彼らを、ですか?」
テレプは表情を引き締めて尋ねた。
「ああ。彼らの目には攻撃性があった。戦略的に付き合っていく必要があると感じたよ」
「そうなんですね」
竜の子が瞳を閉じた。眠りに入るようである。
ルイテルド島にある王宮では、騒動が起きていた。
四代クドルケッド王が島に戻ってくることができず、彼の弟が代理となって王の役割をこなすことになった。だがそれを不満に感じた王の息子の一人が、兵を率いて王宮を取り囲んだのである。
王の不在と竜による港の封鎖。争いなどしている場合でないというのが多くの人々の思いだったが、実際にはそういう弱ったときほど争いが起きやすい。王が死んだという流言も起こり、他島から物資も入って来ず、民衆の不安は募るばかりだった。
「なんか、色々起こっているらしいねえ」
そんなルイテルド島においても、庶民にとって大事なことは様々だった。テオトラの場合は、布を縫っていた。ルハの服にするためである。
「まったく、何を考えてんだ」
ルハは、壁の修復をしていた。嵐は、おんぼろな家を散々痛めつけていったのである。
「わからないねえ。偉い人たちの考えることは、いつだってわからない」
テオトラは笑いながら言う。
「もう一回嵐が来たら終わりだ。風任せは嫌だ」
壁に空いた穴から、外が見える。ルハは、木の枝にとまった鳥をじっと見た。嵐の後とは思えぬほど健やかな目をしており、時折高い声で鳴いた。
「何を見ているんだい」
「凪だ」
「凪? ここにかい?」
「凪いでいた。まったく、呑気なもんだよ」
鳥がもう一羽、飛んできて枝に止まった。二羽の鳥は、しばらくじっと空を見ていた。
「晴れが続くときに、デギストリア島に行こうと思っているんだ」
テレプは言った。
「晴れは、しばらく続くと思う」
レアカは答えた。
二人は、浜にいた。隣同士で、腰かけていた。
「それは、予言?」
「ううん。予想。この空を見たら、わかるもの」
「僕はそういうのが苦手なんだ。けれどもレアカが言うなら、安心だ」
波は穏やかだった。二人の視界の中には、いくつかの小さな無人島と白く細長い雲があった。
「ねえ、そんなに海竜と戦うのが大事なことなの?」
「海竜と戦うことは……わからないな。でも、平穏を取り戻すことは大事だよ。僕は魔法使いとして偉くなって、迎えに行かなきゃいけない人がいるんだ。偉くなるためにも、元通りの諸島になってほしい。レ・クテ島やルイテルド島がどうなっているのかはわからないけれど……」
「そう。うん、なんか、テレプは何でもやれる気がするよ」
「予想?」
「予感」
レアカは、一瞬横を見ようとして、やめた。
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