7-3
大風は遠い地にもある。
かつて西からこの地に流れてきた人々は、旅をしていたわけではなかった。漁のために沖合に出たところ、大きな嵐に巻き込まれたのである。
気が付けば、周囲には全く島影がない。一日漕いでも、二日漕いでも陸地は見えなかった。
三日目、ようやく小さな陸地が見えた。ごつごつとしたその島は、無人島だった。そこにいた海鳥を捕まえて食べ、卵の殻で雨水を集めた。さらには、破損した船を修理するために、こつこつと漂着するものを集め続けた。
彼らは、そこで半年ほどを過ごすことになる。
そしてついに再び漕ぎ出した。だが運悪く、再び嵐に遭うのである。風に運ばれた彼らが何とかたどり着いたのが、ナトゥラ諸島だった。
彼らは最初に、サ・ソデ島に着いたと伝えられる。侵入者として捕らえられたのち許されて、族長たちの召使となった。彼らの子孫は「ナクィド」と呼ばれ、今でもナトゥラ諸島に住んでいる。
ナクィドの存在が、外海にも土地があること、人が住んでいることを伝えている。
レアカは、伝承を言い終えると肩を少し落として息を吐いた。
「素晴らしい語りだったよ」
テレプは両手をもんだ。敬意を表すしぐさである。
レアカは、祈り部になってから伝承を伝えられる立場になったという。そのため今の語りは、ここ数年で覚えたものである。
「俺が聞いてもいいものだったのか」
語りを聞いていたのはテレプとスタンティム。本来伝承を聞けるような立場ではない。
「いいんですよ。隠すものではないと思っています。それにあなたは、知っておいた方がいいでしょう」
「俺が?」
スタンティムは腑に落ちない、といった様子である。
「ええ。あなたはやはり、諸島に外から来ました。同じような立場の人たちの話を、知っておくのが良いと思います」
「まあ、俺は来たくて来たんだがね」
「そうですね。ただ、この後のことはわかりません。帰りたくて帰りますか?」
「それはわからんな……」
「歴史が何か知らせてくれるかもしれません」
スタンティムは、あからさまに苦笑した。
「めちゃくちゃだな」
ルハは吐き捨てるように言った。
嵐が過ぎ去り、静寂が訪れた。しかしそれは、平穏ではなかった。
家の周囲には木や草などが散乱している。畑は一部が水に流され、かなりの部分がなぎ倒され、ぐちゃぐちゃになっている。
「命があるだけいいんだよ」
テオトラは穏やかに言った。
「全部うまくいいのが一番いいじゃねえか。神様ってのはそうする力がないのか?」
「できるからって何でもそうするわけじゃない。ルハだってそうだろ?」
「アタシはいつでも全力だ」
二人はそう言いながら、地道に片づけを続けた。
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