7-2

大風おおかぜが来ます」

 報告を受けた四代クドルケッド王は、頭をかいた。

「わかった。島主の下、皆で迅速に備えるように」

 風の音を聞きながら、王は家族のことを思い出していた。海竜が現れてからこれまで、ルイテルド島に残してきた家族のことはすっかり忘れていた。

 王には三人の妻がいる。二人はルイテルド島の有力者の娘、一人はレ・クテ島の族長の娘である。

 妻たちのことは愛していない。それどころか、好意的にも思っていない。決められた結婚相手に対しては、いつまでも他人のように思えていた。子どもたちが出来れば愛情が向くものだ、と臣下達には言われた。決してそんなことはなかった。

 会いたいと思わないのだ。

 それでも王の務めとして、家族を支えなくてはと思っている。五世クドルケッド王を育て上げること、それが現王として最大の役目なのである。

 王は王であることが仕事であり、夫であること、父親であることはあまり重視されなかった。家族と会わない日が続くこともあった。

 王はルイテルド島に帰なくなって、幾日か経ってようやく家族のことを思い出したのだ。もし自分に何かあったり、ずっとルイテルド島に帰れないときは息子たちの誰かが王になるのだと考えると、不安になった。自分が帰れはしないが死んではいないとなったときに、妻たちの立場がどうなるのかを心配した。新しい夫を得る決断を、ちゃんとしてくれるだろうか。

 ずっと考えて、最後に思った。みんな、嵐は大丈夫だろうか。



 大風と呼ばれるのは、特殊な嵐である。大きな渦を巻いており、ゆっくりと進む。時には停滞することもある。巨大なものになると、「口」と呼ばれる無風の中心地帯がある。普通の嵐に比べて、蛇のような動物的な恐ろしさがある、とよく言われる。

 大風になったら、人々はただそれが過ぎ去るのを待つしかない。外に出れば、人が飛ばされてしまうこともある。

 大きな音の中、テレプはじっと思案していた。手や口を細かく動かす。

「意味……音……」

 それは、魔法を探る作業だった。師匠なしで魔法を習得するのは難しい。ただ、盗まなければならない、と思っていた。

 来訪神と呼ばれた者たちにいた魔法使いの魔法。竜の使った魔法。世の中には知らない体系の魔法がいくつもあることが分かった。それらを極めれば、これまで全くいなかったタイプの魔法使いになれる。

 ごん、と壁から音がした。何かが飛んできてぶつかったようだ。集中力が途切れ、魔法の種が霧消した。

「まだまだだなあ」

 テレプは床にゴロンと横になった。

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