嵐
7-1
「そろそろ家に入るんだ。神様がくしゃみをするよ」
テオトラがルハに言った。
「まだ片づけられてねえよ。嵐が来たら飛ばされちまう」
ルハは畑で働いていたが、テオトラはその手を取って無理やり家に連れて帰った。
「自然の前では、諦めることも大事だ」
「よそより小さくて貧弱な畑しかないんだぞ。家だってぼろい。もっと努力しないとやせ細っちまうぞ」
ルハは、いつもよりはおとなしい口調で言った。
「心配してくれるんだね。ありがとう」
「そんなんじゃない。借りは作りたくないんだ。あんたが死んだら、誰に返せばいいんだ」
「みんなに返しておくれ」
「なんてお人よしなんだ!」
家に戻ると、二人は壁や扉を補強した。台所に行き、真水の量を確認する。
「ルハは本当にしっかりしているね」
「アタシも、一人になっても生きてけるようずっと考えてる」
「でも、ルハは誰かと幸せになることが許されている」
「あんただって……そうだろ。別に結婚とかしなきゃいいんだ。誰かと一緒にいることはできる」
「そうかもね」
テオトラは、左の頬だけで笑った。
ルハはすでに、テオトラに起こったことの詳細を聞いていた。幼い頃に父が人を殺し、捕まった。相手の方が身分が上だったこともあり、過酷な刑が科され、後に死亡。母もある日家を出て行ったまま帰らなかった。そして家族を持つことを禁じられ、周りから疎まれながらテオトラは生きてきた。
「なんだよニヤニヤして」
「ルハがいるとね、賑やかだね。私は言葉の話し方を忘れずに済むよ」
「うるさいのを褒められるのは久々だ。アタシは一人でもしゃべり続けてやる」
びゅうびゅうと、風が扉を叩く音がした。
「ねえ、どんな魔法が使えるの」
テレプとスタンティムの部屋に、一人の男の子が訪れていた。嵐の日は子どもたちも家にいるしかなく、暇なのである。
「いろんな魔法が使えるよ。光を出したり、火を出したり」
「へー、便利」
「ただ、使えば疲れるよ。働くのと一緒」
「そうなんだ」
「大魔法使いならば一緒じゃないのかな? それはまだわからないなあ」
「嵐も止められる?」
「それは無理だよ。自然を変えることはできない」
建物がガタガタと揺れた。強い風が巻くように吹いている。
「レ・クテ島にはもっと魔法使いがいるの?」
「いるよ」
「すごいなあ」
サ・ソデ島には魔法使いが少ないらしい。それを聞いた時テレプは感心したが、スタンティムは「隠しているかもしれない。自分が部外者だということを忘れるな」と忠告した。実感できる言葉だった。
「魔法使いになりたいのかい?」
「どうかなあ。先のこととか考えたことないや」
「そうか」
変わらない日々が、淡々と続いていく。それが幸せなのだろう、とテレプは思った。けれども、もう変化は訪れている。
嵐はどんどんと強くなっていく。
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