6-7

「よくぞ戻ってこられました」

 テレプたちが村に戻ってくると、レアカがそれを出迎えた。

「えらくみんなざわついているけれど」

 テレプはあたりをきょろきょろと見回しながら言った。

「先ほどまで、竜に取り囲まれていたので。海竜の声が聞こえたかと思ったら、突然竜たちが退散していったの」

 浜から村までの間に、竜たちの姿はなかった。

「声が歪められたのかもしれない。海竜と陸の竜たちの意思疎通は、それほど単純ではないのかも」

「言葉が違うかもしれないのか」

 スタンティムは尋ねた。なかば確信している表情である。スタンティムは異言語交流の第一人者ともなっている。

「そうですね。僕らにとっては同じ竜でも、彼らにとっては違う生物ということはあり得ます。ヤドカリもよく見るといろいろなのがいるように。何にしても、スタンティムのおかげで助かりました」

「計画を立てたのはお前だ。色々と肝が据わっている」

「とにかく、圧倒的でないことが分かっただけでも成果がありました。あの時の強大な魔法も、実際には長い時間の準備が必要だったのかもしれません。デギストリア島に行けば、本当に勝てるかも」

 レアカはほっとしたような寂しいような表情でずっとテレプを見つめていたが、テレプの方は全く気が付いていなかった。



「どうしたものかのう……」

 スド・ルイテルド港の近く。異邦人たちが帰還する船に乗せるはずだった積み荷を見つめながら、人々は困惑していた。

 ある箱を開けてみると、そこには大きな竜の卵があったのである。人の頭よりも大きく、全体的に茶色い。

「あの者たちはこれを持ち帰ろうとしていたのか」

「畏れ多いことだ」

「しかしどこで手に入れたのだ。浜や村で卵を見たことは一度もない」

「まさかセンデトレㇺ島に?」

「いつの間にかあそこに入ったのか」

「そんなことができるのか?」

「異国の不思議な魔法を使ったのかもしれぬ」

 皆でいろいろと語るが、どうしていいのかは全くわからなかった。ナトゥラの人々は竜の卵を獲得しようなどとは考えたことがなく、入手してしまった時の対応など知りようもなかったのである。元あった場所に返そうにも、どこにあったかがわからなければ持っても行けない。

「どちらにしても海竜の怒りを鎮めなければ、どうしようもない」

「もしくは誰かが海竜を倒すか……」

「そんなことはできようはずもない」

「海竜は倒してしまってもいいものなのか?」

 結論の出るはずもない話し合いだけが続いた。

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