6-6

「幕を張れますか?」

 テレプはスタンティムに尋ねた。

「幕?」

「海竜の言葉を弾き返します」

「盾か」

「ああそうですね、そういうイメージです」

「魔法ではなく、言葉か」

「そうです」

「ちょっと待ってくれ。――」

 スタンティムは、テレプの知らない言葉を唱え始めた。両手の中に、白く薄い光が広がる。

「おお」

 テレプが感嘆の声を上げた。

「これでいいか」

「まさにそれです。やはりあなたは一流の魔法使いだ」

「褒めても何もやれんぞ。それに、こんなものでは海竜の魔法を封じれるとは思えないが」

 テレプは、自らの手の中にも白い幕を生み出した。

「防ぐのではないです。跳ね返すのです。相手の力を利用します」

 


 浜に、一人の男が姿を現した。海竜はすぐに気が付いて、そちらに視線を動かす。

「おい、海竜。俺たちの前に現れた竜は、しっぽを振って逃げて行ったぞ。何でも、聡明なる星とやらの力らしい。お前は果たして竜の王なのか? それともただのごろつきなのか? どうやら死んだ竜の方が威光があるようだな。どうだ、今すぐ子分たちに俺を押さえつけさせてみたら?」

 その言葉は、竜には竜の言葉で伝わった。海竜は大きく口を開け、叫び声を上げた。

「――!」

 白く薄い光が、男、スタンティムの背後から飛んでくる。スタンティムも呪文を唱え、光を生み出した。竜の叫びの一部が光に当たって、跳ね返される。自らの声を浴びた海竜は、苦悶の表情を浮かべた後、波の下へと姿を消していった。

「大丈夫ですか」

 テレプがスタンティムの下へと駆け寄ってきた。

「なんという危ない役をさせるんだ。肝が冷えた」

 スタンティムはテレプに向けて舌を出した。

「どうもこの辺りは、海側にレテが少ないんです。だから海竜は、陸側にいる他の竜たちに命令しているんじゃないかと。あと、さすがに海竜にも魔法の準備がいるはずです」

「さすがだ。ただ、もう一度飛ばされる覚悟もしたがね」

「僕たちは飛ばされても生きていましたからね。海竜にとっては驚きだったかもしれません」

「しかしなんで海竜は逃げたんだ」

「海竜の言葉にも魔力があるんです。魔法ではないのに。それを聡明なる竜の墓標が打ち消したのがわかりました。不意に自らの魔力を浴びれば、ただではすみません。経験ないですか?」

「……ある」

 スタンティムは瞼を閉じた。瞳の裏に、過去が移っていた。

「やはり、厳しい修行をしたのですね」

「たいしたことはない。大人になってからだったしな。本気じゃなかった」

「だったら天才ですね」

 スタンティムは苦笑した。ここまで魔法を褒められるのは初めてだった。


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