6-5

「こっちです」

 村人の案内で、テレプとスタンティムは村を通らずに、浜がよく見える位置までやってきた。崖の上になっており、木々が少し低い。

「ひょっとしてここは見張りをする場所ですか?」

「まあ、そういうことです」

 海竜は長い首を少し揺らしながら、ずっと島の方を見ている。

「『逃がすな』とは、僕たちのことなんでしょうか」

 テレプは、スタンティムの方を見て言った。

「わからない。そもそも意味が合っているのかも」

 スタンティムは竜の言語を理解しているのではない。魔法によって自らの言語に変換しているのだ。今まさに語っているナトゥラの言葉も、本当はどういう意味を持っているのか確信できないままに彼は語っている。「合っている」と信じているだけで。

「難しい話ですね」

「まあ、同じ言語でも通じているかは信じているだけなのかもしれん」

「本当に難しい話……」

 テレプは考えた。魔法自体が、自然との、神との翻訳なのかもしれない、と。言葉にすると魔法が強くなるのは、意味を明確にするからかもしれない。

 そうだとすれば、海竜の魔法が強かったのはなぜか? 言葉の複雑さ、ではないだろう。海竜が魔法の修業を事故へ道に続けている姿も想像しにくい。

「海竜の命令は、先ほどキャンセルされた。絶対的存在ではないのか、死んだ竜の威厳がすごいのか」

「言葉自体は魔法と違い、それぞれの解釈によるのでしょう。僕らだって、知らない王族が突然命令しても、どこまで従うか」

「なるほど。しかしだからと言って、無効化できるわけではなかろう」

「結局は……倒さなきゃいけないんでしょうね」

 テレプは、海竜の姿を見て一つの希望を見出していた。海竜はあの時と全く同じ姿かたちをしている。おそらく、一体しかいないのだ。

「お前たちにとって竜は、神のような存在ではないのか?」

「神よりも、ルハが大事です」

 テレプは、まっすぐな視線で言った。



「センデトレㇺ島に入った者は、呪いを受けると聞いたことがありますじゃ」

 長老の一人が、四代クドルケッド王にそう告げた。

「どのような呪いだ」

「その者は常に竜に見張られている気がする、と伝えられていますのじゃ。海に出た時でさえ」

「その者はどうなったのだ」

「その後数年のうちに亡くなったとだけ伝わっていますじゃ」

「センデトレㇺ島には何の用事があったのだ? あんなに険しい島に」

「それはわかりませんのう。ただ、竜の卵を見たとだけ伝わっていますじゃ」

「竜の卵……。わかった、とても参考になった。貝宝を五枚授けよう」

「ありがとうございますじゃ」

 長老は王の部屋を出て行った。

 これで王は、レ・クテ島にいる昔の話を知っていそうな者は全て面会することができた。

 そして分かったのは、「海竜はやばい」「けっこう短気かも?」「センデトレㇺ島は手を出すな」ということだった。

「はああああ」

 四代クドルケッド王は、大きな大きなため息めをついた。

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