6-3
三人の目の前に、茶色い竜が現れた。太く短い首、鋭い目と歯を持った顔。
「いかにも強そう……」
テレプは思わずそう言った。竜は皆強いが、その中でも特に強そうに見えたのである。
「やはり、竜は魔法を使わなくても強いのか」
スタンティムが尋ねる。
「そりゃそうでしょうね。戦ったことはないですが」
「どうすればいいんだ」
「逃げるしかないでしょう」
テレプは、どんな魔法を使えばいいかを考えた。だが、相手の特徴、力がわからないので何をしていいかよくわからなかった。耳の奥で師匠が「未熟者」と言っている気がした。
竜が、じわりじわりと近づいてくる。
「ああ、なんということだ。助けてくれ、『聡明なる星』よ!」
村人が叫んだ。それは「神頼み」だった。
竜の動きが止まった。短い首を回して、こんもりした土の山、聡明なる星の墓標を見る。三人の人間には、何が起こっているのかわからなかった。しかし竜は少し体を丸めた後、ゆっくりとその場を去っていったのである。
「スタンティム……聞けませんか?」
「何をだ?」
テレプの問いかけに、スタンティムは存分に訝しんだ。具体的には何のことを言っているのかわからなかったが、抽象的には何を求めているか少しわかったからである。
「今竜はおそらく……『聡明なる星』の声を聞いたのではないかと」
「死んだ者の声が聞こえるとは思わないし、万が一話していたとしても俺にはわからない」
「レテの流れが少し……少しだけ規則的な気がするんです。死んだ竜の魂が、まだここにあるのかもしれない。それとあなたは……海竜の声は聞いたのでは?」
スタンティムはテレプのことをにらみつけた。テレプもまっすぐに、その視線と対峙した。
「叫び声は聞いた。三人とも聞いただろう」
「言葉としてです。あなたの魔法で、それを解釈できたはずだ」
「何を言っている?」
「あなたは魔法使いだ。それも、相当優秀な」
「何かわかったか、レアカ」
目を閉じ、両手を結んで祈るレアカに尋ねたのは、この村の族長だった。体の細い頼りなさそうな体格の男性だったが、目力は強かった。
「安心してください。更なる警告はないです」
「海竜が現れたというのにか」
「それは予言通りです。今から竜も現れるでしょう。しかしあの二人の魔法使いがいれば、
安心です」
「本当に信頼できるのか? 一人はレ・クテ島、もう一人はよくわからない遠いどこかの者なんだぞ」
「海は一つにつながっています。島の違いなど、些細なことでしょう」
レアカは緩やかにほほ笑んだ。
竜たちの足音が、村に迫っている。
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