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「ここが、『聡明なる星』の墓標です」

 テレプとスタンティムは、村人の一人によって高台にあるこんもりとした土の山を案内されていた。そこには特に供え物があるわけでもなく、ひっそりとたたずんでいる。

「思っていたよりも地味ですね」

 テレプは、竜の像でもあるのではないかと予想していた。

「確かに聡明なる星は偉大な竜ではあったのでしょう。しかし常に我々の味方というわけではありませんでした。最初はわれわれを追い出したのも竜であり、われわれに住みやすい土地を与えなかったのも竜なのです。竜に対する思いは、複雑なのです」

「それでも、墓は作ったわけだ」

 スタンティムにとって、竜の存在は謎だらけである。諸島の人々は竜を敬っているようで、畏れているようで、嫌ってもいる。

「そういうものです。たぶん」

「そういうものか」

 その時、海の方から大きな音が響いた。波を打ち付ける音。三人が慌てて下の方を見ると、そこには巨大な竜、海竜がいた。

「ついに来た」

 テレプは、その姿を凝視した。多くの人々を、ルハを殺したのかもしれない竜の姿を。

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