5-8
「一つ聞いておきたいことがあったのですが」
テレプの魔法の鍛錬が終わるまで、レアカは待っていた。ずっと、彼のことを見守っていたのである。
「いいですけど……何ですか?」
「なぜ、スタンティムが魔法使いだと気が付いたんですか」
テレプは、目を見開いていた。レアカの目を、そしてその奥を射抜くように。
「あなたが気付いていることの方に驚きです。私はただ、神からそのように聞いただけなのですから」
「いくつか理由はあります。彼は常に僅かながらレテを纏っていました。でもそれが魔法のせいであることに自信はなかったんですが。彼が僕と同じ場所にいたことも。周りで、二人以外は、死体になっていたんです。僕に匹敵する魔法を使えるのではないかと思いました。そしてもう一つ」
「何なんでしょう? とても興味があります」
「彼が言葉を知りすぎているということです。調査隊の時代から、言葉は少しは変わっているはずです。子孫である彼が、遠い地で、伝承だけで僕らの言葉を完璧に習得できたというのも不思議です。そのようなものがあると思い至ることにも時間がかかりましたが……魔法で、常に言葉を変換しているのです」
「そんなことができるのですね」
「できるのでしょう。諸島とは異なる魔法体系があるようなのです」
「あなたは、頭がいいのね」
「いえ。そんなことはないと思います。色々と気になるだけで」
レアカは細い目をさらに細めて、口角を上げた。
「私は本当に、魔法使いとしか聞いていなかった。あなたのような青年と、異邦人の組み合わせなんて、そんな面白いことまでは、知らなかった。ねえ、不思議なこと、言っていい?」
「何ですか」
テレプは、平静を装うとしていた。レアカの表情が柔らかくなったのも、距離が近づいたのも、気にしていないふりをしようと。
「私は、家族が重荷だった。村の人はみんな家族。優しくしてくれるけど、それは優しくしなくちゃいけないってことだった。だから……島の外の人が訪れるのは、わくわくするの。それにそうは見えないかもしれないけど、私とテレプは年齢が近いと思う。……ねえ、友達に、ならない?」
それは確かに、不思議なことだった。テレプはそんなことを言われるのは初めてだったし、ここでそんなことを言われるとは思ってもみなかった。
「問題ないです」
「それは嬉しくない答え。ねえ、仲良くしてくれる?」
「……うん。わかった」
「よかった!」
二人はその後、談笑しながら村へと帰った。
レ・ペテ島の人々は、二人の逃亡者を追うことを諦めた。
二人が向かったのはデギストリア島の方角だった。レ・ペテ島の人々にとって、デギストリア島は揉めたくない相手である。最も友好的な島であり、サ・ソデ島との緩衝地帯でもある。
二人がサ・ソデ島まで逃げていった可能性も考えていた。そうなると、深追いしてまで関わりたくはないのである。
彼らは、鉱山を封鎖する竜の問題解決を優先させることにした。
竜を殺すことはできない。それは畏れ多いからでもあるし、強いからでもある。
まずは魔法使いが山に向かい、竜たちを眠らせようとした。それは一次的にならば、有効な手段とされてきたのである。しかし一匹の竜は眠ったものの、他の竜たちが魔法使いを攻撃して殺してしまった。
人々は、竜が本気であることが分かった。竜はずっと、人間に危害を加えてこなかったのである。警告はしても、人間を傷つけ、さらには殺してしまうことはないだろうと島民たちは高をくくっていた。
もし竜が山を下りてきたら。サ・ソデ島は、他島を攻めるどころではなくなっていた。
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