5-6
「よくぞレ・ペテ島から脱出しましたね」
レカアは、テレプとスタンティムの二人に食事を運んできた。
「どういうことですか」
テレプが尋ねる。
「昔から貧しかったレ・ペテ島では、訪れた人を捕らえ、交渉材料にすることがあるのです。貧しかったゆえにそうするようになったのでしょう」
うっすらと笑みを浮かべてレアカは答えた。
「あそこでは魔法が雑でした。優秀な魔法使いがいないのでしょうか」
「そうかもしれません。もしくは、隠れているのかもしれません。彼らはできるだけ私たちと交流しようとしてきませんでしたから、よくわからないことも多いです」
「そうなのですね。同じ諸島内の島なのに、全く知りませんでした」
「他の三島に比べて、場所も文化も、離れていますからね」
「レアカさんは博識ですね。ひょっとして僕がこうしてお話してはいけないお方でしょうか……」
テレプは、視線を少し落とした。
祈り部には、いろんな身分の者がなる。族長の娘だということもありうる。
「そんな恐れないで。私はただのそのあたりの娘。早く結婚しましたが、若くして夫を亡くしました。亡くなった夫の加護か、予言が冴えるようになったのです」
レアカの頬に、小さなえくぼができた。テレプがそれに見とれているのが分かって、スタンティムは首をかしげた。スタンティムの生まれ故郷では、えくぼはあまり良いものとはされていなかったのである。
「俺たちが来ることがわかっていたというのならば、海竜が現れるのは予言していたのか」
スタンティムは、レアカに対しては厳しい視線を向ける。彼にとって「神の言葉が聞ける」というのは、どうにも信頼できない事象なのである。
「はっきりとはわかりませんでした。ただ、海には近づくな、と。浜には誰もいませんでしたでしょう?」
確かにいなかった。と二人の男は同時に頷いた。
「では、もっと何かないのか。未来のわかる予言が」
「残念ながら。あと、わかっていても教えられないことがあります。あなたたちは、まだ客人。まずは私たちと共に暮らして、魂の友になってください」
再びできたえくぼに、テレプは見惚れていた。
レアカが部屋を去ると、テレプとスタンティムの二人はこの島の文化を思い知ることになる。食事は各部屋ごとに食べるが、扉は開けっ放しだった。子どもたちが何度も入ってきて、二人を眺めたり、話しかけたりした。木の実を持ってくる男性や、レ・クテ島の話を聞きに来る女性もいた。
サ・ソデ島では、村人が家族のようになって一つの上に暮らす。島主や族長の部屋に勝手に入るということはさすがにできないそうだが、それでも他の島に比べれば身分差というものがあまりないようにテレプには感じられた。
「同じ諸島でも随分と違うものだな」
「僕も驚いています」
「俺はおまえにも驚いているぞ」
「えっ」
「幼馴染一筋なのかと思っていたが、あの未亡人のことも気に入っていたな」
「そんな僕はただ、綺麗なところに感心していただけです」
「心も綺麗だと思ったら、引き返せんぞ」
「僕はルハのことしか考えていません。ずっとです」
俺も若い頃はそんなことを言っていたかもなあ、とスタンティムは思い出し、ふっと息を吐いて笑った。
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