5-5

「最初人々が下り立ったとされる浜……じゃないかと思います」

「それはわかるのか」

「いえ、何か他のところは『感じ』が怖かったです。いい感じのところに着いたのではないかと」

 その浜には、いくつかの船が置かれていた。桟橋などはない。

「人の姿が見えんな」

「集落はもう少し先にありそうです」

 二人は崖の上へと続く道を歩いていった。うっそうと茂る木々を抜け、開いた場所に出る。

「お待ちしておりました」

 背の高い、切れ長の目の女が立っていた。年は若く、笑っているが笑顔が似合わない、とテレプは感じた。

「待っていた? どういうことだ」

 スタンティムは、疑いのまなざしを女に向けている。

「二人の魔法使いが島を訪れるであろうと、予言されておりました」

「ということは、あなたはいのですか?」

 テレプが尋ねると、女はうなずいた。

「そうです。サ・ソデ島の祈り部のレカアと申します」

 スタンティムがテレプの袖を引く。

「なんだ、祈り部とは。他の島では聞かなかったぞ」

「祈り部は普段は普通の生活をしています。僕も誰がレ・クテ島の祈り部かは知りませんが、誰かが引き継いでいるのは確かです。こうして有事の際には信託を得るのです」

「そうですよ。そしてやはりそちらの方は、諸島の外からいらしたのね」

 レアカの言葉に、スタンティムは少し視線を和らげた。

「ああ。諸島から外海調査に出かけた者の子孫、スタンティムという。俺は魔法使いではない」

「僕はテレプ。レ・クテ島の魔法使いです」

「スタンティムとテレプ。ようこそいらっしゃいました。ご案内いたします」



 サ・ソデ島はナトゥラ諸島最南端の有人島である。人々が最初に上陸し、竜に追い返されたという伝説が残る。

 その時、竜は人間を追い返しはしても、傷つけることはなかったという。そして後に人間がこの島にも住むようになった時、姿を現したのがひときわ大きな竜だった。「聡明なる星」と名付けられた竜は、最初の人間と出会った竜の生き残りとして、敬われることになった。

 聡明なる竜の眠る島。サ・ソデ島のことは、皆がそのように理解している。

「それ以上のことは知らなかったのか」

「僕らの島からは遠いですし、出身者も会ったことがなくて。正直、謎の島でした」

 そう言いながらテレプは、窓の外の家を眺めた。長く横に伸びた家は、ぐるんと曲がっている。実はその家は、この家でもある。一つの家が、長く伸びて蛇がとぐろを巻くようになっているのだ。

「不思議な家だ。見たことがない」

「僕もです。似たものも聞いたこともない」

 二人は一つの部屋を与えられていた。そこそこ広く、毛布なども備えられている。

「対応も昨日とは全く違う。まあ、これも監禁の一種なのかもしれないが」

「よそ者とはそういうものですよ。あなたたちの最初の運が良すぎただけです」

「……」

 スタンティムも、気まずそうに窓の外を見た。

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