5-4

「ここは……?」

 日が昇り、あたりが照らし出されると、そこは一面の海だった。テレプはあたりをきょろきょろと見回すが、陸地は見当たらない。

「知らないところなのか。諸島民にはどこも庭みたいなものかと思っていた」

 スタンティムは眉間に皺を寄せている。

「沖に出ることはめったにないですからね。潮の流れからして外海には出ていません。とはいえここは……デギストリア島は越えてしまっているような」

「大丈夫なのか」

「レテの動きで探ります。島には島の、エネルギーの流れがありますから」

 レテは死んだ生物の生み出す、魂の力である。海と陸では、例の動き、量、室は全く異なる。陸地特有のレテが探知できれば、「なんらかの島」があることはわかる。

「無人島ということはないのか」

「あります。そのあたりは、見ればどの島かはわかります。諸島民は、そのあたりは鍛えられているので」

「そうか」

 テレプはしばらくじっと意識を集中させていたが、ある方角を指さして言った。

「あちらに大きな島を感じます」

「おお」

 それからスタンティムが櫂を漕ぎ、テレプが風を操った。太陽が真上に傾く前に、島影が見えてきた。

「あれは……?」

 スタンティムの表情が明るくなる。緑が多く、彼の目には実り豊かな島に映った。

「サ・ソデ島ですね。諸島の中で最も南に位置します」

「デギストリア島を通り過ぎたのか」

「そうですね。まあ、いいでしょう。追っ手も向かった可能性があります。サ・ソデ島とは思わないでしょう」

「ひょっとして何もない島なのか?」

「そんなことはありません。いたって普通の島ですし、神聖な島でもあります」

「神聖?」

「『聡明なる星』……人間と最初に出会った竜が生きていた島です」



「何が必要だと思う?」

「それは……」

 四代クドルケッド王の前には、一人の老人が立っていた。長い髪と頭髪、深い皺。見るからに「長老」である彼は、縮こまっていた。

「遠慮なく言え」

「恐れながら……竜を鎮めるのは、神しかおられないかと思います」

 長老は格村で敬われる存在だが、族長と違い王の前に出ることはめったにない。長生きしたというだけで王の御前に呼ばれたのは、ナトゥラ諸島の歴史上この長老が初めてである。

「まあ、そうか。お前は、神を感じたことがあるか」

「あ、いえ、あの……幼い頃に一度」

「どういうときだ」

「サ・ソデ島に渡ったときです。その……光が巻くのを感じました。いえ、その、それが神などとはとても言い切れないのですが……」

「いや、参考になった。ありがとう」

 長老は、深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

「三人目だ。サ・ソデ島に神がいると言ったのは。いるんだろうな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る