4-8

 レ・ペテ島主のもとに、島の族長たちが集まっていた。島主も宴に誘われていたのだが、参加していなかった。異邦人たちとのつながりを持ちたい、という思いを優先しなかったのである。

「これは好機である」

 島主は力強く言った。熱のこもった声だった。

「どうなさるのですか」

 族長の一人が尋ねる。

「王とルイテルド島・レ・クテ島は今混乱している。力も削がれた。われわれにはダイヤモンドがある。独立すれば、献上する必要はない。異邦人が来たことも好都合だ。いざとなったら、諸島外とも取引できることがわかった」

「本当に独立、できますか」

「それを今から検討せねばならん」

「あの漂着した二人はどうしますか」

「人質として役に立つとは思えんが、殺すにはまだ早い。特にあのスタンティムとやらは様々な情報を持っておる」



「はあ」

 テレプは一度、魔法を止めた。島主たちの会話を盗み聞くのはとても疲れる作業だった。

 レ・ペテ島の独立戦争が起こるかもしれない。それは、あり得ないこととは思わなかった。

 レ・クテ島がルイテルド島の支配下になったのも、デギストリア島が禁魔の地となったのも、反乱が原因である。伝承を聞いていなくとも、諸島民ならば誰もが知っていることである。

 レ・ペテ島は最も反乱の力がないようでいて、反乱の理由がある島だった。有人島の中では最も小さく、土地が瘦せており、良い漁場があるわけでもない。そのうえ多くの税を取られ、ずっと蔑ろにされてきた。それでいて「税を払えぬことがあり泣き寝入りをしている」と他島から後ろ指をさされることもある。歴史的にレ・ペテ島の人々の不満は溜まっていたのである。

 ダイヤモンドの発見により貧しさは改善されつつあったが、「宝石を献上させられている」という意識も強くある。現状、レ・ペテ島のダイヤモンドを島民はほとんど所持できていない。島民は一切の販売権を持っていないし、隠し持っているのがわかれば大罪に問われる。

 島で採れたものを、島で保持できない。レ・ペテ島民はそれを屈辱ととらえていたのである。

「どうだった」

 スタンティムが尋ねる。

「予想よりも大変なことになりそうです」

「そうなのか。運よく島にたどり着いて、運よく救助されたと思ったんだが、そんなに都合の良いことばかりではないか」

「海竜に遭遇することが充分運が悪かったですね。あんな災厄みたいな存在に出会うことはなかなかないですよ。まあ、あなたにとっては自業自得かもしれませんが」

「俺は何もしていない。いや、通訳というのは言い訳の効かん存在かもしれんな」

「通訳というのがどういう存在か僕はよくわかりませんが……そう言うならば、そうなのでしょう」

 二人とも、腕を組んで唇を噛んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る