4-7

 レ・ペテ島に死体が流れ着いた。どう見てもナトゥラの者ではない。その姿を確認したスタンティムは、口を手で覆った。そして、誰にも分らない発音でその名を呼んだ。

 テレプも嘆息した。海竜に抗うすべが、思いつかなかった。今のところ、あの魔法から生き延びたとわかっているのはたった三人である。なぜ自分がそのうちの一人なんだろう、とテレプは落ち込んだ。もっと助かるべき人はいっぱいいたのに。

「スタンティム……あなたの国には、生贄という文化はありましたか」

「何を急に。あったさ」

「海竜は、それを求めたのかもしれません」

「あまりにも理不尽すぎないか」

「いえ。あなたたちは、センデトレㇺ島に入りましたね。そしておそらく、何かを持ち帰った。それが決定打だったのではないでしょうか」

「竜とは、そこまで怒らせてはいけない存在なのか」

「考えたこともありませんし、僕程度では知ることのできないことです。ただ……あなたも感じたでしょう。あれは、やばいものです。感覚で、わかったでしょう。同じ理屈では生きていない存在です」

「ここは……とんでもない土地だな。ん?」

 兵士たちが、二人のもとにやってきた。好意的な顔ではなかった。

「ついてきてもらおう」

 二人は抵抗しなかった。連行され、暗い部屋に幽閉されることになったのである。



「本当に運命共同体になったようだ。孤独よりはましか」

 スタンティムはそう言うと、鼻を鳴らして何回か笑った。

「こうなるんじゃないかとは思いました」

 テレプは神妙な顔つきである。

 二人は暗い部屋に閉じ込められている。扉は固く閉ざされ、外には兵士が見張っている。

「俺たちは生贄にされるのか」

「わかりません。いいようにとらえるなら……海竜から隠してくれたのかもしれません」

「そうだといいが。……何をしているんだ」

「気が付いたんです。僕は正体を明かしていない」

 テレプは、目を閉じて眉間に右手の人差し指を当てていた。レテを頭に集中させているのだ。

「正体?」

「言わないでください。聞かれているかもしれないから」

 テレプは、そう囁いた。

 レテを練って、建物の外へと意識を飛ばす。五感を飛ばす、特殊な魔法である。

 「ま・ほ・う・つ・か・い?」とスタンティムの口が動いた。テレプはうなずいた。彼は魔法使いだと知られていないのを利用して、外の様子を探ろうとしたのである。 

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