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 海竜が海から姿を現すと、大きな波が生まれ船がいくつも流された。港にいた人々は慌てふためき、逃げ惑ったり、海竜に魅入られて動けなくなったりした。首の長い、大きくて青い竜。それは、人々が初めて見る形であり、威圧感であり、色だった。

 人々が諸島で初めて上陸した島、ルイテルド島には竜にまつわる昔話が多い。しかし、海竜に関する話を知っている者はほとんどいなかった。

 スド・ルイテルドの族長は、海竜について聞いたことがあった。伝承の一つとして、勝手にルイテルド島以外に立ち入った人間を殺す竜の話がある。どこからともなく現れ、人々を海の底に誘う。そのようにして人々は最初、ルイテルド島だけに縛られていたのである。

 だが、海竜の話はその時代にしかない。ナトゥラの歴史において、それほど注目される存在ではなかったのである。

 騒ぎを聞きつけてやってきた族長は、はっきりとその姿を見た。伝承の中でもあいまいだった、伝説の姿を。

「なんということだ……」

 その姿を見た瞬間に、族長は感じた。これは「絶望」だと。



「白い目で見られている気がする」

 スタンティムは言った。

 レ・ペテ島に到着したテレプとスタンティムは、温かく迎えられた、というわけではなかった。

 まず二人は、丁重にもてなすような相手ではない。身分の低い青年と、得体のしれない男性に過ぎない。来訪神の話自体は伝わっていたが、「見た目も神々しい」ということになっていた。ナトゥラの血も引くというスタンティムは、さほど島民たちと姿が変わらない。

 また、レ・ペテ島民の伝統的な感情もあった。貧しさゆえに、他島民から蔑まれることもあった。他島に渡ったレ・ペテ島民が、出身を隠すこともあった。レ・ペテ島の島主は、四人の島主の中で一番下に見られることも多かった。それが、ダイヤモンドの発見により他島民の方がうらやむ土地になった。急に移住しようとしてくる者も増えた。

 レ・ペテ島民は島で生き抜き、島を守り抜いてきたという自負がある。彼らには連帯感があり、他島民とあまり関わりたくはないのである。

 かと言って、遭難していた者を見殺しにすることもない。テレプとスタンティムは浜の小屋で水と食料を与えられた。

「本来よそ者というのはそういうものですよ。これから言うことも信じてもらえるかどうか」

 海竜が現れて魔法皆がで飛ばされた、というのはなかなかに荒唐無稽な話であるとテレプは自覚していた。あの場に他の生き残りがいなければ、二人の妄想ということにされてしまうかもしれない。

 だが、そうはならなかった。「海竜現る」の報が、レ・ペテ島にも届いたのである。

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