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 レ・ペテ島は漁が盛んである。特に良い漁場があるというわけではないが、ダイヤモンド献上のおかげで獲った魚は全て自分たちのものにできる。そして自らで食べるとなると、より新鮮な魚が欲しくなるのである。

 さらに今日は、いつもと異なる事情もあった。昨日はある事情で禁漁だったのである。それは「宴」のためだった。レ・クテ島で来訪神見送りの祝宴があったため、大量に魚を用意する必要があった。そういう日には、他の島では魚を獲ってはいけないことになっていた。

 たった1日の禁漁だが、人々にとっては大きい。魚は保存しにくく、獲った日には食べたいものである。魚は毎日確実に獲れるわけではないが、絶対に食べられない日があるとどうしても欲しくなるものだった。

 いっせいに皆が漁に出る中で、沖に漕ぎ出す者もいた。より良い魚を求めてである。幸い、今日は風もいい。

 その中の一人が、煙を見た。方角的に、リンデリンデ島以外には考えられない。この島には時折海水浴客が訪れるものの、そこで火を使う者などはこれまでいなかった。

「誰か流れ着いたのか?」

 男は近付いてみることにした。二人の人間がいるのが分かった。年配の独特な風貌の男と、若い青年。どちらも憔悴している。

「助けてくださーい!」

 青年が叫びながら手を振っていた。こうしてテレプとスタンティムは発見され、二人の遭難は1日と少しで終わった。



「誰も来ない……?」

「そのようで」

 ルハは首を傾げ、天井を見上げた。自宅とは違う造り。それでもナトゥラの伝統的な建築だ。これも故郷の家も見納めかと思っていたのだが、まだ来訪神たちがやって来ていないらしい。

 彼女はルイテルド島の港、スド・ルイテルド近くの民家にいた。出立までここで待機することになっていたのだ。来訪神たちはレ・クテ島で祝宴を楽しんだ後、こちらに渡って出航することになっていた。しかし待てど暮らせど誰も来ず、ついには次の日になってしまったのである。

 聞けば、王や島主も戻ってきていないという。島民たちの不安がどんどん大きくなる。

 そして昼過ぎ、ついに一隻の船がレ・クテ島からやってきた。急いで渡ってきたのは、伝令のものだった。

無事。レ・クテ島にて休憩」

 それが、伝えられた言葉だった。人々は少しだけ安心したが、不安がかき消されることはなかった。続く言葉があったのである。

「多くの者が行方不明。海竜現れて、魔法を使う」

 その報せは、ルハの耳にも届いた。

「えっ! テレプも参加してたはずだろ……どうなってんだよ」

 島主が行方不明なことに人々は衝撃を受けた。レ・クテ島に親戚や知り合いのいる者も多い。来訪神に何かあったとしたら、祟りがないかと恐れる者もいた。

 人々の心はかき乱されたが、一気にそれどころではない出来事が起こる。

 スド・ルイテルドに、海竜が現れたのである。

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