4-2
レ・ペテ島は、五島の中では最も小さい。人々が住み始めたのも最後で、耕作に適した平地は少なく、土地も痩せている。特段魚が取れるわけでもなく、水鳥の生息地があるわけでもなく、ずっと貧しい島であった。
と、テレプはここまでをスタンティムに語った。10数年前までは、これがレ・ペテ島の正しい説明だった。だが、今は事情が違う。島でダイヤモンドが出たのだ。
ダイヤモンドの輝きは支配層の人々を魅了した。三代クドルケッド王はダイヤモンドを自らに献上させ、王家で管理することにした。その代わり、レ・ペテ島は多くの税を免除されたのである。
レ・ペテ島はにわかに裕福になった。王や島主たちもそのことを来訪神に語らなかったし、隠しておいた方がいい、とテレプは思ったのだ。
「朝だな」
「朝ですね」
「その貧しいレ・ペテ島の島主もあの場にいたのだろう」
「あの場にいたかどうかはわかりません。僕らはほとんど偉い人の姿を見られませんからね」
「そういうものか」
「スタンティムがいたところは違ったんですか?」
「姿ぐらいは見られたさ」
テレプは流木と衣服に魔法で火をつけた。煙で存在を知らせるためである。
「魔法で照らした方が目立つんじゃないか」
「レテを消費しますからね。それに、僕がずっと集中しなくてはなりません。魔法は、無駄遣いしたくないです」
「そこも俺たちとは違うな」
「王は変えていきたいらしいですが……今はそれどころではなくなりましたね」
口にはしないが、テレプは王が亡くなっている可能性の方が大きいと思っていた。あの魔法に巻き込まれれば、普通は無事では済まない。ただ、護衛がしっかりしていれば、少しは望みもある。
皆がどうなったのか、ルイテルド島はどんな様子か、全く予想がつかない。テレプの心は不安でいっぱいだったが、それでも淡々とできることをしていった。
全ては、ルハと再会するために。テレプにとって、彼女と過ごすために淡々と頑張るということは、今までと変わりなかったのである。
「はあ、はあ」
村に入ってきた男の姿を見た時、人々はそれが誰だかわからなかった。王の姿を見たことのある者は少なかったし、一人で汗だくになりながら訪れるとは夢にも思わなかったのである。
「どうされたんですか?」
「水を一杯貰いたい」
「はあ。待っててください」
最初に出会った村人は、首をひねりながら対応した。格好からして偉いのは間違いないのだが、知っているどの族長とも顔が異なるし、島主でないことも明白だったからである。
「いやあ、こんなに距離があるとは思わなかった」
「どこから来たんです?」
「浜から」
「は?」
村人は眉間に皺を寄せた。てっきり遠い集落から歩いてきたのかと思ったのである。浜から村までは確かに少し距離がある。ただ、毎日皆が往復しているほどの距離であるし、今日は宴のために何往復もする者がいた。
「すまぬ。浜までは船で来たのだ。皆すぐそばに住んでいると思っていた」
「いやあああ!」
様子を見に来たその村の族長が、悲鳴を上げた。たまたま宴から戻っていたのである。疲れ切った王と、その王を直視する、もはや見下しているとも言える村人が見えたのである。
「族長! わざわざ来ていただき申し訳ありません」
「バカ者! 頭を下げよ!」
族長はあわてふためいて、村人の頭を押さえつけた。
「は、はあ」
「王、大変なご無礼を!」
「いやいや、いい。水を貰えて大変ありがたかった」
「……王? 王様?」
「そうだ! 来訪神出立祝いの宴に来ておられたのだ!」
「え、ええ? いや、ええ? あ、あの、本当に申し訳ないです……」
「顔をあげてくれ。それどころではないのだ」
族長が、恐る恐る四代クドルケット王と視線を合わせた。
「どうなさったのです?」
「それが……私以外、皆いなくなった」
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